・ージーのルームメイトであるデブは、匂いに対して非常に敏感だという。
そのため、私たちは次のようなことを約束させられていた。
●レンタカーは使用せず、モーテルにも泊まらない(両方とも清掃に合成洗剤が使われている可能性が高い)
●洋服はスージーのものを着用し、彼女の家に寝泊まりする
●スノーフレーク訪問前、そして滞在中はパーマをかけない
デブが筋金入りの「対全世界過敏症」であることは、これらの約束から容易に想像できた。
スノーフレークを訪れる前から、マエと私は化粧、ローション、香水、ヘアケア製品、香料入り洗剤や柔軟剤などの使用を何週間も控え、無香料の石鹸やシャンプー、オーガニックのデオドラントなどを使うようにしていた。
だがそうした努力にもかかわらず、デブの敏感な鼻は私たちの体臭を嗅ぎとった。
彼女にとって、私たちの体はまるでボディケア用品の専門店「バス&ボディワークス」
の店内でウォッカの洪水が起きたような匂いを発しているそうだ。
スノーフレークまでの道のりは、険しかった。
夜明けに起き、6人乗りの小さな飛行機の激しい揺れのせいで吐き、やっとの思いで着いたと思ったら高速道路を1.5kmも歩かなければならなかった。
長い道中、私たちの体はすでに文明に汚染されきっていたようだ。
家に到着するやいなや、スージーはこう宣言した。
「あなたたちの汚れを徹底的に落とさなきゃね。大丈夫よ、過酸化水素はたくさんあるから!」
「外界の化学薬品を家に持ち込まずに洗い落すには、全裸になって車からシャワーに直行するのが一番!」というスージーに押し切られ、私たちは恥をしのんで砂利の敷かれた庭を裸で行進した。
「シャワー、お先にどうぞ」タオルを体に巻きつけながらマエが言った。
彼女と出会ってから、まだ数時間しかたっていなかった。
スージーの家の浴室は、他の部屋と同様にアルミ泊が全面にがっちりと貼られていた。
トイレにある開かない小窓からは、砂漠が見えた。
私はオリーブオイル石鹸でごしごしと体を洗いながら、硬水の金属臭を吸い込んだ。それ以外には何の匂いもしなかった。
誰かが浴室のドアをノックした。マエだ。
彼女は遠慮がちに、私に「下着」を着たかどうかを聞いてきた。
彼女は、私が先ほど渡された「スージーの下着」を着たかどうかを知りたかったのだ。
私は下着なしで服を着ようかと悩んだ。
するとスージーの叫び声が聞こえた。
「キャサリーン! ちゃんと私の下着を着た?」
「はーい、着たわ!」
そう返事をするしかなかった。
その後キッチンで夕食をとった。
デブは穀物、遺伝子組み換え食品、保存料、そしてあらゆる人工調味料や香料に拒否反応を示すため、夕食はキャベツのスープのみだった。
夜が更けると、マエと私は仕切りカーテンの後ろに身をかがめ、どうやって寝るかを話し合った。
金属製の折り畳み式ベッドが2台あったが、一台は壊れていて毛布もなかった。
人間の毛穴は危険な化学物質を放出していて、毛布はそれを吸収するから、というのがその理由だ。
アリゾナの砂漠の夜は凍えるようだった。だが、スージーの家には暖房がなく、いっそ気を失ったほうがましなほど寒かった。
少なくとも、ベッドからむき出しになった鉄製のばねを覆うものが何かないかと聞いてみると、スージーは突然、外へと飛び出して大声で叫んだ。
「皆さんご参考までに! ここにいる“スパイたち”は思ったより攻撃的です!」
家のなかに戻るなり、彼女は泥まみれのバスマットを私たちに差し出した。そして、呆然とする私たちを尻目に、電気を消しながら「これで快適に寝られるわね」と言った。
その夜、前日まで完全なる他人だったマエと私は、暖をとるために抱き合って眠った。
この居心地の悪さも、スージーやデブが通常の世界で苦しんできたものに比べれば大したことじゃない──そう自分に言い聞かせながら。