60:電波ばく露による生物学的影響に関する評価試験及び調査 | 化学物質過敏症 runのブログ

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10. 人体全身平均SARの特性評価

1.まえがき
ユビキタス社会の到来で多目的の電波利用が家庭の内外において急増する一方、微弱電波の人体影響が懸念されている。

人体における電磁エネルギー吸収は、単位質量あたりに吸収される電力量、即ちSAR(Specific Absorption Rate:比吸収率)で評価される。

そもそも電波の人体影響は全身ばく露で生ずる体内深部の温度上昇で評価され、その熱源となる全身平均SARで世界各国の電波ばく露に対する安全指針が構築されている。

特に全身平均SARは、同じ強さの電波ばく露でも周波数によって異なり、しかも特定の周波数で最大に達することが知られている(この周波数は「共振周波数」と呼ばれる)。

このような電波に対する人体の「共振現象」は、自由空間においては身長が約0.4波長に相当する周波数で生ずるとされ、成人の共振周波数は70MHz前後になるという[1,2]。
国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)の電波安全指針では、全身平均SARについて安全率を考慮した基本制限を定め(職業環境0.4W/kg、一般環境0.08W/kg)、これを超えない電力密度(共振周波数帯を含む10MHz-400MHzでは2W/m2、2GHz以上では10W/m2、その間の周波数帯では周波数に応じて変化)を参考レベルとして定めている[3]。

が国においては0.4W/kgの全身平均SARを基礎指針とし、これに対応する電力密度を職業環境下の管理指針とし、さらに五分の一を一般環境下の管理指針として定めている[4]。

この種の参考レベルや管理指針は、人体簡易モデルを用いて数値的に評価したものであり、旧来、回転楕円柱モデル、ブロックモデルなどが用いられてきた[1,5]。
近年の計算環境の発達に伴い、精巧な解剖学的人体全身数値モデルに対してFDTD(Finite-Difference Time-Domain)法による計算推定が試みられてようになってきた[2,5]。

一方、ICNIRP参考レベルやわが国の管理指針レベルの遠方界ばく露で生ずる人体全身平均SARの周波数特性は、共振周波数帯とGHz帯とで2箇所の極大値を有する双峰型特性[2]を示すことが知られてはいるが、これらの周波数帯における電波吸収機構については不明の部分が多い。

また、これらの帯域における一般環境下の子供に対する全身平均SARのピーク値はICNIRP基本制限値に近く、わが国の職業環境下でも小柄の人体では基礎指針を超える恐れもある[2]。

それ故に、人体全身平均SARの両周波数帯における吸収機構を解明し、ピークレベルを推定することが急務とされる。

一方、これらの計算結果は、大規模数値計算にもとづくものであり、人体数値モデルや境界条件を含む計算アルゴリズムの種類・精度に応じて大きく変わる恐れがある。
本調査では、まず、UPML(Uniaxial Perfect Matched Layer)吸収境界条件を組み込んだFDTDアルゴリズムを用いて、まず、理論値の得られる球モデルに対してMieにり導出された球モデルに対する理論値[6]と比較することにより、計算コードの妥当性を解析空間サイズとの関係において検討した。

つぎに、英国放射線防護局(NRPBNational Radiological Protection Board、現在、Health Protection Agency)の開発になる欧州人の解剖学的人体全身数値モデルに対して共振周波数帯からGHz帯に亘る全身平均SARを計算し、NRPB所属のDimbylowによる計算結果[2]と比較検証した。

更に、ICNIRP参考レベルの遠方界ばく露に対する人体全身平均SARを電気定数と人体形状との関係において計算し、共振周波数帯領域とGHz帯領域において生ずる双峰型吸収機構とピーク予測の可能性を考察した。

最後に、NORMANモデルを縮減・作成した小児モデルに対する全身平均SARのピークレベルを示し、その予測法も併せて調査した。