2.FDTD法の精度検証
FDTD法でSARを数値計算する際には、解析空間を吸収境界で閉じておく必要がある。
この吸収境界にはPML(Perfectly Matched Layer)が最も有効とされ、頻用されているが、PMLからの反射効果は、通常は自由空間において検討される。一方、全身人体に対するSAR計算では膨大なメモリを必要とするため、人体モデルを含む解析空間はできる限り縮減されるが、生体近傍の散乱界には近傍界成分も含むため、PMLへの入射方向が複雑となり、PMLからの反射特性が解析空間の大小によってさらに劣化する恐れがある。
ここでは、まず理論値の得られる均質球モデル(2/3筋肉)に対して、平面波入射時の平均SARを求め、Mieの理論値と比較することで、筆者らのFDTDコードの妥当性を解析空間サイズとの関係において検討する。
図1 FDTD解析空間とモデル配置図
図1にFDTD解析空間と球モデルの配置を示す。球モデルは半径10cm、セルサイズ2mm、2/3筋肉で構築され、それを解析空間の中央に配置し、+y方向に進行する平面波を照射した
。なお、Mieの理論値によれば、この球モデルの共振周波数は460MHzとなる。共振周波数460MHzを含め、70MHz、2000MHzにおいて、球体表面から吸収境界面までの距離dを変化させた場合の平均SARのMieの理論値に対する相対誤差を求めた。
なお、入射電力密度は1mW/cm2、吸収境界条件は12層のUPML層とした。図2に計算結果を示す。
図から、球の共振周波数460MHzでは誤差が大きいこと、高周波数に比べ低周波数では誤差が相対的に小さいこと、吸収境界面までの距離を大きくすれば、平均SARはMieの理論値±2%に収束すること、50セル(0.1m)離せばMieの理論値との差は±4%以内であること、などがわかる。なお、いずれの周波数においてもFDTD計算
結果は振動しながら収束していく傾向が読み取れる。この傾向を
sin(2 / 0 ) 0 err Ae d d e = ?α π λ +φ + (1)
で表せるものとし、図2の各周波数のデータに対する波形フィッティングから式(1)の各パラメータを求めた.その結果を表1に示す。但し、e 0 はMieの理論値とのずれである。
表1から、誤差の振動する空間波長λ0は、
0 λ ? λ / 2 (2)
で与えられ、ほぼ入射波の半波長に等しいことがわかる。
また、振幅Aは共振周波数で8%と最も大きくなるが、減衰定数αの周波数依存性は小さいことがわかる。
これらのことから、PMLからの反射は解析周波数及び生体との距離の両方に依存し、その影響は共振周波数のときに最も顕著にはなるものの、低周波帯では極めて小さいものといえる。
以上の知見が、共振周波数そのものに依存するかどうか調べるために、半径10cmの球に対し、共振周波数が高くなる半径5cmと低くなる半径15cmの2/3筋肉球でも同様の解析を行った。
このとき、Mieの理論値より、半径5cmの球の共振周波数は960MHz、半径15cmの球の共振周波数は310MHzとなる。
これらの球に対して、球体表面から吸収境界面までの距離dを変化させた場合の共振周波数でのMieの理論値に対する相対誤差を図3に示す。
図から、相対誤差は、異なる共振周波数の場合でもMieの理論値付近で振動していること、振動振幅は低周波に比べ高周波で大きく、共振周波数でのPMLからの反射の影響は低周波より高周波でより顕著になること、などがわかる。