・Ⅳ 実験結果
1. 研究倫理審査について
本研究の実施に先立ち、国立保健医療科学院研究倫理審査委員会に倫理審査を申請した。当該委員会において公正中立な審査を経て、研究計画に対して承認が得られた。(承認番号:NIPH-IBRA#05004)
2. パイロット調査について
これまでにパイロット調査として480名を対象に調査を完了した。
パイロット調査の目的は、計画の被験者数を集めるためにどの程度の規模の調査を行なうべきかを検討するための予備的な調査であると同時に、少人数の被験者を集める過程でもある。
パイロット調査の結果、480名中、276名から回答があり(回収率57.5%)、有効回答はうち213名であった(図8、母集団に対する有効回答率は44.4%)。
このうち、心疾患、てんかんの既往、その他病院への通院歴などで、被験者として除外される方を除くと、178人が今回の実験参加可能な候補者の母集団となった。
「電磁過敏症」に関連のある愁訴に関する項目の2つ以上に「よくある」と回答した方は2名(1.1%)であった。
しかしながら、この症状を本人が電磁波による障害と考えているかという質問がなかったため、いわゆる電磁過敏症という診断にあたるかは不明である。
症状を呈している2例は、電話使用で皮膚がかゆくなる・赤くなると電話をすると肩がこる・頭痛がするという症状であった。
今後の調査に当たっては、アンケートにアトピー性皮膚炎、喘息に関する質問項目と電磁波により健康障害の症状を来したと本人が考えているかという項目を追加すべきであると結論した。
(この2名からは、実験のための説明会への参加承諾は得られなかった)。
3. 被験者の募集状況について
上記のパイロット調査に基づく178人の実験参加可能な候補者の集団のうち、研究説明会に参加してもよいと回答した60名に説明会の案内を配布した。
そのうち、36名から返答があり、うち21名は「説明会の会場が遠い」「仕事がある」などの理由で説明会への参加が拒否された。残りの15名については、実験説明会を計6回に分けて開催した。
このうち欠席による辞退は3名で、12名が説明会に参加した。
この12名のうち、10名から実験の参加承諾が得られた。
参加の承諾が得られなかった2名の方の辞退の理由は「実験場所が遠く不便なため」「仕事の都合のため」とのことであった。
このように、480名規模の調査ではあるが、研究班が予想した人数よりも多くの方々に研究参加の意思表示をしていただいている状況である。
現在のところ3名の方の実験を終了した段階であるが、さらにデータを取得しているところである。
4. 実験結果 被験者のデータについて
健常者でのパイロットスタディの結果は昨年既に報告している。
今年度は、上述のアンケートで実験参加に同意のあった少数例で実験を行なった。
ただし、これらの実験については、double blind を維持するため、key openは行なわないので、どの条件の時の実験結果かは不明のまま、4条件での結果だけを羅列する。
4.1.1 反応時間実験
176人の候補者の中で10名が実験参加を承諾しているが、現時点で実験が終わったのはそのうち3名である。
この3名のうちの1名の反応時間の結果を図9に示す。
Reaction time, movement timeとも、実験の条件の差異により影響を受けているような印象はなかった。
ただし、どの条件がどのセッションかに関しては二重盲検のため結論は出せない。多くの症例のデーを収集し、key open される時期を待たなければならない。
4.1.2 神経心理実験
ひとつの典型例の結果を図11に示す。
これらの内どのセッションが電磁波ばく露であり、どれが違うかは現時点ではわからないので、電磁波の影響に関しては分析出来ない。
そこで、変化に関する考察を順番だけに関して行った。
緊張感を示すtension-anxiety因子を見てみると、最初のセッションでは緊張していて、その後安定していく傾向が認められる。
鬱気分や怒りの感情では特に変化は見られず、元気さを示すvigor因子では、回数を重ねるに従い疲れた感じが出てきていると思われた。
疲れなども同様に、セッションが後になればなるほど重度になっていた。これらの順序効果による交絡を相殺し、カウンターバランスをとれるほどの多くの症例・情報が集まり、実際の電磁波の影響を検討出来るようになれば、結論が得られるであろう。
4.2 生理学的検査
現在のところ3名分の実験が終了している。このうちの1名のデータを図12に示す。
しかしながら現段階では、4つのセッションの条件についても、二重盲検のために開示されておらず、どのセッションがどの条件に対応するかがわからないため、これをもって何らかの結論をすることはできない。
一方で、被験者から特に問題なくデータが取得できたので、更にデータを収集している。