2.5.2 精神心理検査
すべてのばく露の前後で、Profile of mood states (POMS)検査を行った。
この検査は、気分の状態を測定するもので、以下の6つの因子ごとに評価する。
すなわち、緊張-不安、抑うつ-落ち込み、怒り-敵意、活気、疲労、混乱の各因子である。
2.6 生理学的検査
生理学的検査においては、大きく分けて以下の3項目についてばく露開始前5分からばく露終了までの約35分間にわたり連続的に行なう。
2.6.1 皮膚表面温度のモニタリング
皮膚表面温度は温度プローブを用いたモニタリングを、末梢として温度変化が大きいと予想される手の表面をターゲットとして測定を行なう。
本実験においては、ばく露開始前5分よりばく露が終了するまでの間、連続的にデータを取得する。
2.6.2 末梢酸素飽和度(SpO2)、指尖脈波および心拍のモニタリング
本実験においては、パルスオキシメーターを用いて、末梢酸素飽和度の測定を行なう。
パルスオキシメーターは、指先にクリップを装着して測定するものであり、原理的には血液のオキシメーターと同様に血流中のO2(酸化)ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの吸光度の差を利用して測定するもので、指尖装着したクリップを通じて665nm付近の赤色光と880nm付近の赤外光の2波長を当てて、透過する光のうち白銅部分のみを取り出してそのスペクトルを分析して吸光度の比から酸素飽和度を求めるものである。
一般に、脈波を正確に測定できないとSpO2の誤差も大きくなることから、本実験においては、指尖脈波も常時モニタリングを行なう。
また指尖脈波のRR間隔から算出される心拍数のモニタリングを行なう。
一般に末梢酸素飽和度は緊張ストレスなど末梢循環に影響がみられると顕著に変化がみられる。
また、心拍数も同様に、ストレスに応じて変化がみられる。本実験においては、クリップを被験者の右手人差し指に装着し、ばく露開始の5分前からばく露終了後までのモニタリングを行なうことで、ばく露にともなうこれらの項目の変化に注目する。
2.6.3 皮膚血流量のモニタリング
末梢の血流量については、レーザードップラ血流計を用いて、ばく露時間中の末梢血流量の変化をモニタリングする。非金属素材製のプローブを、左手の指先部に固定し、レーザードップラの原理により血流量の変化を記録する。
2.7 主観的評価
全ての実験セッションの間、被験者は電磁界を感じているか否か、あるいは何らかの違和感を感じるか否かについて、5分おきに被験者に回答してもらうものとする。
回答は、被験者の手元のスイッチを用いて行なう。回答の選択肢としては、電磁界の感じ方については「電磁界がある」「電磁界がない」の2通りとし、違和感の感じ方については「とてもある」から「ない」までを5段階として、被験者が選んだ回答をPCに記録し、主観的評価として用いる。
2.8 二重盲検本研究を通じて全てのばく露装置の操作においては、二重盲検法で行なうこととする。
すなわち、実験操作の作業する者とばく露装置を操作する者は別々に作業を行い、結果の解析終了後にばく露の条件を明らかにする。
被験者も実験の際にはその時のばく露条件については知らされない。
その点で実験者、被験者共に測定の際にかかるバイアスを最大限除くことが可能である。
2.9 統計処理
この研究は、実験に参加する各々の被験者が、それぞれ異なる4つのばく露条件を全て受ける4項目のクロスオーバー試験となっている。
4つのばく露条件の順番は、無作為に割り当てられ、ランダム化をすることで、ばく露条件による反応の違いだけでなく、実験の順番による効果、シークエンス効果(実験の流れによる影響)、時間効果(実験の時間帯による影響)を個別に評価することが可能となる。統計処理においては、分散分析を基本とするが、各データに正規性・等分散性がなく分散分析の適用が適切でない場合は、Kruskal-Wallisの順位検定を利用する。
本研究における主要因としてはばく露条件、主要なエンドポイントとして、
①電磁界の有無の知覚に関する主観的評価
②神経学的検査項目として反応時間タスク
③生理学的検査項目として皮膚温度
とするが、これらの相関については統計処理では考慮しない。
また、副次的なエンドポイントして心理検査(POMS)スコア、心拍数、呼吸数、皮膚血流量の各指標を用いる。
主観的評価の解析に関しては、電磁界のばく露の有無を感じるか感じないかについて、各ばく露条件における正答率を指標とする。
反応時間タスクのデータについては、各被験者のばく露条件の前後の変化について、対応のあるStudent’s t testを用いて検討を行なう。
心理検査については、各感情を示すPOMSの6つの下位尺度について、独立して検討を行なうこととする。
生理学的検査項目については、計35分間(ばく露前値5分、ばく露30分)の測定を1~5分毎のインターバルに分割し、各インターバル内の平均値を区間代表値として扱い、前値をベースラインとしてそこからの増加量を指標としてその群間比較を行なう。