・.2.2 騒音のばく露システム
電磁波ばく露が特異的に影響を及ぼすという可能性に対し、物理的な刺激に非特異的に反応する傾向を被験者が有する可能性もある。
非特異的な作用の可能性を検証するために、電磁界ばく露の他に、対照に非特異的な物理的刺激として音刺激を用いた実験を行なう。
被験者はあらかじめオージオメータにて簡便な聴力検査を受け、可聴域を測定しておく。
騒音はPCにて制御された可聴域の音で、ハム音等の周期騒音または、帯域制限されたランダム波形の騒音とし、スピーカーにより発生させ、被験者にばく露する。
騒音レベルは生活環境に例えれば、デパートや銀行ロビーなどと同等の70dB(A特性)台以下とする。
2.3 実験プロトコール
1人の被験者を例にとり、実験の流れを図5に示す。
被験者は、研究の概要の説明および同意書の作成と事前スクリーニングで1日、本実験で2日の計3日間、保健医療科学院に来訪し研究に協力する。
本研究で被験者が署名捺印する同意書について、本報告書の末尾に参考資料として添付する。
なお、本実験で来訪する2日間においては、実験に先立ち問診票による健康問診を行い、被験者の体調を把握することとする。
実験は、1人につき以下の4条件を行なう。
A 電磁界の連続ばく露
B 5分ごとにON/OFFがランダムに行われる間欠ばく露
C 無ばく露(シャムばく露)
D 騒音ばく露(間欠ばく露)
4条件の順番はランダムに選択され、4回の実験で全ての条件が行われるようにする。
なお、被験者には行われている条件は教えずに実験を行なう。実験者も同様の二重盲検方式でデータ解析を行なう(後述)。
また、一つの実験の中での流れを図10に示す。
2.4 事前スクリーニング
同意を得た被験者は全ての実験に先立ち、専門家による性格検査ならびに面接を受ける。
これらの事前スクリーニングにより重篤な精神科疾患が疑われた場合には、実験の被験者からは除外し、専門家の判断により適切に対処する。
2.5 神経心理学的検査
基地局のアンテナからの電磁波による影響を調べる実験から始める。実験の概要は図6に示す通りで、30分間の電磁波ばく露の前後で、POMS(Profile of mood states)によるその時の気分の状態と、反応時間のタスクを施行し、前後で変化があるかを分析する。
2.5.1 反応時間実験
反応時間実験として、Teraoら(2005)が報告したprecued-choice reaction time task用いた(図7)。
このタスクでは、押すべきボタンの位置という情報と、使うべき手の左右という情報の二つが規定される。
Cueが出たら、なるべく早くこのタスクを施行するのであるが、cueの前にprecueとしてそれらの情報の全部または一部が提示される試行と全く提示されない試行がランダムに行われる。
結果は、後から試行条件ごとに分析されるようになっている。
反応時間試行時は、まずcueの後100msにおいて視覚野で条件として与えられた視覚情報を認知し、その後200ms位で位置情報を頭頂葉で処理し、300msになると運動野から手を動かす指令が発せられる(Terao et al, 2005[10])と考えられている。
この情報処理過程では、様々な大脳領野が連絡しあい、情報交換をしてタスクを行っていると考えられる。
そこで、単純な反応時間課題より外乱に影響を受けやすいと判断して、今回の実験に使用した。