42:電波ばく露による生物学的影響に関する評価試験及び調査 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・電波ばく露による生物学的影響に関する評価試験及び調査
8. ヒト感受性に関する調査

Ⅰ 要旨
電磁界防護指針を大幅に下回る電磁界でもその存在を一部の人々は感受・反応するという報告がある。

本研究はその事実の有無などを主観的、心理学的のみならず生理学的な客観的指標に基づいて多角的にボランティア実験により評価することを目的とする。
昨年度は、携帯電話基地局を想定した電磁界を発生させるばく露装置の製作、各測定項目のプロトコールの作成およびすべての測定項目を一連のタイムテーブルで行うための調整を、さらにそれらの妥当性を検証するために少人数の健常成人ボランティアによって予備実験を行い検査方法を確立した。
本年度は、実験施設の充実として、国立保健医療科学院の人工気候室に電磁シールドルームを完成させ、さらに実際の実験状態でのばく露評価を行い実験条件を確立した。
また、一般の市民から無作為に被験者を集めるための手法について検討を行い、その妥当性を検討するために首都圏在住の女性480人を対象に郵送によるパイロット調査を行なった。

その結果、電磁過敏症に関連のある愁訴に関する項目の2つ以上に「よくある」と回答したのは2名であった。

本研究での被験者の標本サイズは、他の研究例および実験の物理的な条件から推定すると、感受群が20名必要である。その数の被験者を集めるためには、5000名規模のアンケート調査が必要であることが判明した。

また、パイロット調査から研究に協力していただける被験者10名おられ、内3名について一連の実験を施行し、順調にデータを取得した。
なお、本研究は、国立保健医療科学院の研究倫理審査委員会の承認を得て実施している(承認番号NIPH-IBRA#05004)。


Ⅱ 研究目的
携帯電話の普及は著しく、我々の社会生活を便利にし、近年急速にその普及範囲を広げてきている。

(社)電気通信事業者協会の調べによれば、平成16年度末には日本国内では9200万台を超える端末が使用されており、その数は増加の一途をたどっている。
一方、携帯電話から発せられる高周波電磁波が生体に影響しないかどうかが重要な関心事のひとつであり、また、携帯電話の基地局からの電磁波が健康に障害とならないかも大きな関心事となっている。

携帯電話の端末から発生する電磁界については、電波防護指針に基づきその強度は規制されており、その指針を満たした端末のみが販売されている。また、同様に携帯電話の基地局から発せられる電磁界においても電波防護指針が満たされており、一般公衆に適用される電波防護指針値が十分な安全率を考慮して設定されていることから、これらの電磁界ばく露による健康影響はないと考えられているが、いくつかの報告では問題も示唆されている。前述したように日常生活で発生する様々な電磁界に対して、それらが十分に低いレベルの電磁界であっても健康への影響を心配す国民もおり、最近では生活環境中に存在する小さなリスクでもそのリスクコミュニケーションの重要性・必要性が説かれている。

電磁界においても行政、関連業界の人々、および科学者や技術者は、電磁界が及ぼす生体への影響を科学的知見に基づいて説明する責任がある。
さらに近年では、いわゆる「電磁過敏症」を訴える人がおり、医療や行政等の現場においてもより詳細な検討が求められている。

しかしながら電磁過敏症については、その症状の定義そのものが曖昧であり、かつ実験的研究や疫学調査において過敏症の症状と電磁界との相関はないとの報告が多く、WHOにおいても現在のところ、電磁過敏症については「症状は確かに存在するが、その重傷度は非常に広い幅があり、どのような症状を引き起こすにせよ、影響を受ける人にとって日常生活に支障をきたす可能性のある問題」とする一方、「明確な診断基準がなく、電磁界のばく露との関連は証明されず」の立場をとっている(WHO fact sheet #296, Dec.2005[*])。
過敏症の存在に疑問を投げかけているデータとしては、以下のものがある。疲れやすさの一つの指標となると思われるコリンエズテラーゼを電磁波過敏と訴えている方で分析したところ、その減少は証明されず、客観的に器質的障害を証明することが出来なかったと言う報告(Hillert et al, 2001[5])がある。また電磁波過敏と訴える方々を対象とした研究で、訴えている方はあらゆる身体的・精神的・環境的ストレスに弱く、特* URL http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs296/en/
に電磁波に過敏な訳ではなく、特異性がなく色々なストレスに弱いだけであると言う報告(Lyskov et al, 2001[6])もある。

さらに、電磁波過敏を訴える方々に実際に電磁界をばく露し、感知したか否かの質問をしたところ、正しく感知できた人はなく、むしろ偽ばく露条件において、感知を申告した場合が多かったと言う結果も出ている(Hietanen et al. 2002[3])。こ

の結果からは人が電磁界を感知できる能力の有無については否定的ではある。

感受性群と非感受群で、経頭蓋磁気刺激への感受性を検討したところ、両者で差がなかった(Frick et al, 2005[1])と言う報告もある。

さらに、ごく最近、多くの文献を評価した結果、自覚的に電磁波過敏症と称している方が、電磁波そのものに本当に敏感であると言う証拠は見つからなかったとされている(Rubin et al,
2005[7])。

その一方、電波防護指針値のレベルを大幅に下回る電磁界でも、一部の人々には健康を害する原因となるという報告もある。

たとえば、フィンランドの一般公衆を対象にした研究では全体の1.5%の人が、携帯電話の使用により何らかの愁訴を持つとされている(Hillert et al. 2002[4])。

これらの愁訴を持つ人では心電図でのRRインターバルの変動幅が下がっており、自律神経が気質的に傷害されていると言う報告(Sandstrom et al, 2003[8])がある。

さらに、2003年に報告されたオランダのTNO(Netherlands Organization for Applied Scientific Research)のレポート(以下、「TNOレポート」とする)では、過敏症の症状を自己申告したグループと一般的な健常者にある特定の電磁界ばく露を行なった場合、心理学的手法による反応時間テスト、認知テストで有意な差が認められている。

以上のように、電磁波過敏症の存在に関しては、否定的報告がある一方肯定的な報告もあり(Hillert et al, 2002[4], Sandstrom et al,2003[8])、現時点では電磁過敏症に対する結論は出ていない。
本研究においても、TNOレポートの追試を念頭に置きつつ、人の主観による電磁界の感知の可否を調べると共に、客観的な指標として心理検査、反応時間テスト、および複数の生理学的指標を調べることで、電磁過敏症についての実験的な検証を行なう。

使用する電磁界環境については、我が国の携帯電話で使用され、近年急速に利用者が増加しているW-CDMA方式を模倣したものを使用する。

携帯電話システムによる電波は基地局から端末に向けて放射される電波(ダウンリンク)と端末から基地局に向けて放射される電波(アップリンク)があり、その波形および人体ばく露の性質はそれぞれ異なる。

本研究では、携帯電話の基地局をモデル化した電磁界環境に被験者を配置し検討を行なう。

主観的評価としては、電磁界を感じたか否かを被験者に申告してもらい、神経学的指標として質問紙による心理検査と反応時間テストを行なうこととする。

また同時にTNOレポートでは計測されていない生理学的な指標についても検討を行い、心拍数、末梢皮膚血流量、末梢酸素飽和度(SpO2)、指尖脈波をそれぞれ非侵襲的にモニタリングし、ばく露に伴う変化の有無を観察することとする。
本年度は一般市民からの被験者の募集方法についてまず十分な検討を行い、第三者による研究倫理審査において承認を経た後に、実際にパイロットスタディとして被験者の募集を行なった。

参加協力を得られた市民からは上記の各指標を取得した。最終的には被験者として、感受群20名、対照群20名のデータを集め、感受性の有無を科学的に検討することを目的とする。