41:電波ばく露による生物学的影響に関する評価試験及び調査 | 化学物質過敏症 runのブログ

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1.2 血球細胞の実験結果
本報告では、ヒトから採血した全血を画分した白血球細胞を照射対象として調査を行った。

血球細胞を用いた実験では、蛍光観察法によりラジカル発生を評価した。

これはESRにより十分なラジカル検出感度を得るために必要となる細胞数が蛍光観察に比べ非常に多くなること。

さらに、マイクロ波照射後の血球細胞をESR測定部に移動する際の物理的刺激がラジカル活性に与える影響が明確でないためである。図19に血球細胞を用いたラジカル評価実験の様子を示す。
白血球画分調整は以下の手順で行っている(図20)。

はじめに、EDTAを内壁に塗布した採血管によって人より採血する。

次に、全血(EDTA含有)を3本のプラスチック遠沈管(容量15 ml)に6mlずつ分割し、2%のDextran T500CMF-PBS溶液を2/3容量(4 ml)ずつ添加し、30分間静置の後に上清を分取する。

ここで、顆粒球をとるため、遠心分離(400×g、6分間)を行い、上清を除去する。照射実験に用いるまでは冷暗庫に静置する。
なお、血球細胞の経時変化による測定誤差を抑えるため、採血からラジカル検出実験までの時間を最大で12時間以内とした。
照射するマイクロ波の周波数は、繊維芽細胞を用いた実験と同様に、2.45GHzおよび900MHzである。

また、2.45GHzについては、連続波およびDuty比10%のパルス変調波、900MHzについては、連続波、パルス変調波、GSM変調、PDC変調、cdma2000変調信号とした(表2)。照射出力は、2.45GHzの場合に500W、900MHzの場合は25W照射時間はいずれも300秒(5分間)である。
表2 細胞照射マイクロ波の諸元

図19 血球細胞の実験






図20 白血球の画分調整法



5分間のマイクロ波照射後、蛍光輝度値から評価した2.45GHzおよび900MHzのラジカル測定結果を非照射(control)の場合と比較して図21および22に示す。

なお、2.45GHzの場合は照射時の細胞温度は28度から33度の範囲、900MHzの場合は22度から25度の範囲であった。周波数2.45GHzの場合、連続波、パルス変調いずれの場合もラジカル発生影響は観測されない。

また、900MHzの場合も変調の種類によらず明確なラジカル発生影響は観測されなかった。
図21 血球細胞のラジカル測定結果(照射マイクロ波周波数:2.45GHz)






図22 血球細胞のラジカル測定結果(照射マイクロ波周波数:900MHz)
続いて、これまでの検討から、血球細胞のラジカル発生は、細胞温度が強く影響すると考えられる。

そこで、ラジカル発生と細胞温度の関係を明らかにするため温度をパラメータとしたラジカル測定実験を行った。本報告で用いた温度制御装置は、恒温槽の水温を調整することにより単体で任意に細胞温度を変化させることができる。
マイクロ波を照射せず、温度制御装置のみで細胞温度を変化させたときの撮像蛍光画像を図23に示す。



左から、組織温度20度、27度、35度の場合の蛍光画像を示している。
同図より、組織温度が上昇するにしたがい、バックグラウンド(背景)輝度が上昇しておりラジカル産生量が上昇することが分かる。
つぎに、約500の測定サンプルを使用し、照射電波の周波数および変調信号を変化させた場合のラジカル発生量を測定した。
図24に、2.45GHz、900MHzのマイクロ波照射後の蛍光画像から得た輝度値について細胞温度をパラメータとしてプロットした結果を示す。

ここでは、温度制御装置を用いて細胞温度を上昇させた場合の非照射の輝度値を青色、2.45GHzの照射を行った場合を赤色、さらに900MHzの場合の結果を緑色で示している。

ただし、2.45GHzの特性は連続波とパルス変調波、900MHzの特性は、連続波および各変調波(GSM、PDC、cdma2000、パルス変調)を含んでいる。

同図より、細胞組織の温度上昇と蛍光輝度から計算されるラジカル発生量はほぼ比例関係にあり、また、データにある程度のばらつきはあるがマイクロ波の照射/非照射にかかわらずラジカル発生量は同程度であると考えられる。さらに多くの測定データを用いた詳細な統計的解析が今後必要である。





図24 温度とラジカル発生量の関係


Ⅴ 結論
2.45GHzおよび900MHz帯のマイクロ波照射が細胞のラジカル発生に与える影響について実験調査を行った。ヒト由来真皮繊維芽細胞および血球細胞を用いて、ラジカル発生影響について実験的調査を行った。照射中の細胞温度上昇をコントロールしてマイクロ波照射を行い、蛍光観察およびESRでそれぞれラジカル測定を行った。いずれの測定法においても、紫外線の場合と比較して、マイクロ波を照射した場合では明確なラジカル発生は確認されなかった。
また、血球細胞におけるラジカル発生においては、温度の上昇が支配的であり、周波数帯および変調方式に依らずマイクロ波照射による直接的な生体ラジカル発生影響は観測されなかった。