Ⅳ 試験結果
1. ラジカル測定結果
2.45GHzおよび900MHzマイクロ波の非照射、連続波照射、パルス変調波照射後の試料を蛍光観察およびESRでそれぞれ測定し、測定結果からラジカル発生に対するマイクロ波照射影響について検討する。繊維芽細胞、血球細胞を用いた実験結果について以下に示す。
1.1 繊維芽細胞の実験結果
実験では、活性が非常に高く細胞障害との関係が指摘されているヒドロキシルラジカル(OH)に着目して測定を行う。ヒドロキシルラジカルは寿命が非常に短いため直接測定はできない。そこで、蛍光観察およびESR測定のいずれの場合においても、試料に対してラジカル測定試薬の添加を行う。以下、実験手順について説明する。
図8に示すように、CO2インキュベータ内でマイクロセル上に一様分布となるように、同一条件で培養された繊維芽細胞を用いた。蛍光観察によりラジカルを観測する方法[9、10]では、ラジカル種によって蛍光輝度は異なるものの、観測された蛍光画像からはラジカル種についての直接的な情報は得られない。本実験では、ヒドロキシルラジカル検出のための蛍光試薬( 蛍光プローブ試薬) として一般的である
DCFH(2',7'-dichlorodihydrofluorescein)を用いる。
測定用培養細胞細胞培養インキュベータ細胞の確認培地(RITC80-7) 等
図8 照射装置のFDTD解析結果
また、ESRによる測定では、試薬で捕捉したラジカル種の違いに応じて、異なるスペクトルが得られるラジカル捕捉剤(スピントラップ剤)DMPO(5,5-Dimethyl-1-pyrrolineN-oxide)を用いる。
試料への薬添加にあたっては、蛍光試薬DCFHを用いる場合、測定細胞中へ浸透させるために添加後20分間の静置を行っている。その際、細胞培養のため用いているHF-C1培地(㈱機能性ペプチド研究所製)をCMF-PBS(リン酸緩衝化生理食塩水からCa塩・Mg塩を除去したもの)に交換し、照射を行う。一方、スピントラップ剤DMPOは、細胞中へほとんど浸透しないため、静置は行わず、HF-C1培地をCMF-PBSに交換し、試薬の添加後すぐに試料への照射を行う。
次にマイクロ波照射条件について示す。照射周波数は、2.45GHzおよび900MHzとし、2.45GHz連続波の照射においては、照射装置の入力電力を500Wとして300秒間(5分間)の照射を行った。ただし、照射中の細胞温度は36度以下となるように、温度コントロールを行っている。なお、パルス変調波の照射ではPeak電力500W、Duty比を1/10とし、同じく300秒間の照射を行った。
(1)ESR測定結果
図9に照射周波数を2.45GHzとした場合のESRにより得られたラジカルスペクトルをまとめて示す。紫外線照射した試料のスペクトルからは、ヒドロキシルラジカルの特徴を示す明確なシグナルが観測されており、ESRによるラジカル測定の有効性が確認できる。
図10に、ESRスペクトル強度からもとめた相対ラジカル量を比較して示す。
相対ラジカル量は、試料のシグナル強度とMn markerのシグナル強度の比により算出した。また、グラフに示した範囲は、雑音による相対ラジカル量の誤差を表したものである。紫外線照射の場合と比較すると、いずれも、非照射の細胞と照射後の細胞では有意な差は観測されない。
図10 ESRシグナル強度の比較(2.45GHz)
(2)蛍光観察結果
図11~13に、蛍光観察により得られたラジカル測定結果を示す。測定試料の蛍光輝度は、撮像する位置によって異なるため、同一ディッシュ内の任意の4ヶ所の撮像画像から輝度を計算しそれらを平均した。非照射と紫外線照射の試料から観測された蛍光輝度を図11に示す。
紫外線照射した試料(UV)の蛍光輝度が非照射のもの(Control)より大きくなっており、ラジカルの発生が確認できる。試料に2.45GHzの連続波を照射した場合および2.45GHzのパルス変調波を照射した場合の蛍光輝度を図12、13にそれぞれ示す。いずれの場合も非照射の試料(control)と比べ有意な差は見られず、ラジカルの発生は観測されない。ESRによる評価結果と同様の結果が得られた。
次に、900MHz帯マイクロ波照射実験の結果について示す。照射出力は25W、ベクトル信号発生器(Agilent technologies社 E4438C)により連続波(CW)、パルス変調(peak電力:25W、Duty比:10%)、GSM変調、PDC変調、cdma2000変調信号の場合について照射実験を行った。測定結果を非照射(control)の場合およびUV照射の場合と比較して図14から18にまとめて示す。いずれの場合も、マイクロ波照射による明確なラジカルの発生は観測されなかった。
図13 非照射(Control)と2.45GHzパルス