Ⅱ 研究目的
ラジカルとは、不対電子を有する分子または原子の総称であり、遊離基あるいはフリーラジカルともいわれる。
ラジカルは分子あるいは原子の最外殻軌道に不対電子を有するため、不安定であり、かつ反応性が非常に高い。
図1に、水分子を例としてラジカルの体系を示す。
また近年、ガンや内臓疾患等の健康被害への関心の高まりとともに注目されるようになってきたものに活性酸素がある。活性酸素は、大気中に含まれる酸素分子が、より反応性の高い化合物に変化したものをいい、一重項酸素、スーパーオキシドアニオンラジカル(通称スーパーオキシド)、過酸化水素、ヒドロキシルラジカルがある。このうち、スーパーオキシドアニオンラジカルおよびヒドロキシルラジカルの2種類が不対電子を有する生体ラジカルである。
これらラジカルの生体への影響について、近年の研究でガン、心疾患あるいは潰瘍等の多くの疾患の原因となることが分かっている。生体中のラジカルは、病原菌を退ける役割があるが、一方でその体内における過剰な発生はすべての組織細胞を酸化させ、多くの疾患を誘発させる。ラジカルの生体影響について代表的なものを以下に示す。
・体内たんぱく質あるいはアミノ酸を変性
・体内の脂質を過酸化
・核酸(DNAやRNAなど)を分解
・酸素を失活細胞が損傷を受けることで、多くの疾患が生じ、人体における疾患の90%以上に生物ラジカルが関与しているともいわれている。
化学的には、以下の条件によりラジカルが生成される。
・熱分解、光分解、放射線分解などの化学結合の切断(homolysis)
・他のラジカルの分解、転位、付加、誘発など二次的反応
・電子の授受一方、生体内におけるラジカルについては、様々な発生原因が報告されている。
例えば、先にあげたスーパーオキシドアニオンラジカルは呼吸作用によって生体中で常に生成される。
これは主に生体中の免疫機能に用いられ、不要な場合についてはSODと呼ばれる抗酸化物質により分解される。
しかしながら、その生成が過剰であった場合には、細胞に対して攻撃的に作用し、老化あるいは遺伝子損傷の原因となる。
また、 過剰に生成されたスーパーオキシドアニオンラジカルは、過酸化水素を経て活性酸素の中でもっとも反応性の高いラジカルであるヒドロキシルラジカルを発生させる。
さらに生体中に過剰なラジカルを発生させる要因として、 空気中の汚染物質、アルコールの摂取、 放射線や紫外線のばく露、過剰なストレス等があげられている。ま
た明確な報告例は存在しないにも関わらず、電磁波の影響をあげるものも多い。
本研究では、マイクロ波が生体ラジカルに与える影響について実験的な検討を行うものであり、生体ラジカル発生に対するマイクロ波の直接影響の有無を明らかにすることを目的としている。
Ⅲ 試験方法
1. 測定試料
平成17年度においては、被照射試料として、ヒト真皮由来繊維芽細胞および血球細胞を用い、マイクロ波照射がラジカル発生に及ぼす影響の調査を行う(図2)。
2. 照射電波
調査照射電波として、以下に示す周波数帯および変調信号を用いて照射実験を行う。
1. 2.45GHz:連続波(CW)、パルス変調波(Duty:10%)
2. 900MHz:CW、パルス変調波(Duty:10%)、GSM、PDC、cdma2000
3. 検出方法
ラジカル検出手法として、電子スピン共鳴装置(ESR)を使用する方法、DCFH-DA蛍光観察法の2種類の方法により行う。
生体中に発生するラジカルは、その寿命がおおよそ10-8秒程度と短寿命なため、これを直接測定することはできない。
そこで、被照射細胞に対して、ESRの測定においてはラジカル発生時にこれをとりこみ安定ラジカル(スピンアダクト)とするためのスピントラップ剤、蛍光観察においてはラジカルと化合するDCFH試薬を添加し、これを検出することにより間接的にラジカル発生を評価する。
なお、本実験調査ではラジカル発生のPositive Controlとして長波長紫外線(UV-A、波長:320~400nm)を使用する。紫外線照射は、ラジカル発生機序の一つとして確認されていることから、測定法の有効性確認とマイクロ波照射によるラジカル発生量との比較のために行った。
4. 実験系
本報告では、培養した繊維芽細胞あるいは全血から画分した白血球細胞にラジカル検出用試薬を添加した後、各周波数に対応した照射装置によりマイクロ波の照射を行う。
図1 ラジカルの体系
照射には、平成15年、16年度に開発を行った2.45GHz開放型マイクロ波照射装置および900MHz帯リッジド導波管型照射装置を用いる。以下、照射装置について説明する。
・また、実験においては、被照射細胞温度をモニターおよびコントロールしつつ、高出力なマイクロ波照射を行うため、図5に示すような恒温漕を用いた温度制御装置を用いた。
設置においては、ペトリディッシュの上部位置に固定し、被照射細胞に直接的な影響を与えないことを確認している。
また、石英円筒管底面からの反射による照射強度上昇影響については、電磁界解析により検討を行っている。