7. 生体ラジカル発生へのマイクロ波影響の実験調査
Ⅰ 要旨
生体防御機構の一つに生物ラジカルがある。
生物ラジカルとは、生体中において生成・消滅する不対電子対を有する分子のことであり、これは一方で発癌、老化などの多くの疾患に関与し得る毒性を持つものである。
本研究では、各種マイクロ波照射による生物ラジカル発生について実験調査を行い、基本的特性を明らかにすることを目的としている。
研究代表者等はこれまでに、マイクロ波照射が生物ラジカル発生にあたえる影響を調査するための基礎実験をおこなってきた。
平成15年度および16年度においては、マイクロ波照射が生体ラジカル発生機序に与える影響についての調査・研究を目的として、平成15年度ではISM周波数帯である2.45GHz連続波(CW)に対応した開放形マイクロ波照射装置、平成16年度には移動体通信に用いられる900MHz(CW)帯リッジド導波管型高密度マイクロ波照射装置の開発およびパルス変調波の照射実験系を構築してきた。
また、生体ラジカル評価対象組織として、平成15年度は動物の筋組織および摘出組織を平成16年度は培養したヒト真皮由来繊維芽細胞を用いてマイクロ波照射および基礎的なラジカルの検出実験を行った。
この結果として、組織温度がタンパク質の凝固温度以下を保持したマイクロ波照射では、紫外線(UV-A)照射後のヒドロキシルラジカルが発生した組織と比較して、いずれの周波数帯でも明確なラジカル発生は観測されないことを明らかにしてきた。
本年度はISM周波数帯である2.45GHz連続波(CW)およびパルス変調波、900MHz連続波(CW)に加え、移動体通信に用いられる900MHz帯の変調信号を用いたマイクロ波照射実験系を構築する。
被照射試料として平成16年度で用いた繊維芽細胞は、比較的紫外線等の影響を受けやすいためラジカル反応の検出に適しているが、さらに影響の受けやすい細胞として血球細胞(白血球、赤血球、血小板、リンパ球等)がある。例えば、骨髄やリンパ節は造血細胞と支持細胞から構成されているが、前者は放射線に非常に感受性が高く、後者は比較的抵抗性があるとされる。これら血球細胞に関して、変調も含めたマイクロ波照射に起因するラジカル発生影響についての詳細な検討、実験調査例はこれまで明らかにされていなかった。
そこで、平成17年度は、繊維芽細胞に加え、新たに血球細胞についてラジカル発生にマイクロ波照射が及ぼす影響について調査を行い、さらに、各周波数帯において、変調信号の違いによる影響についても詳細な検討を行った。
調査に関しては、SAR(比吸収率)および温度との関係に着目して測定を行う。
紫外線照射によるラジカル発生をコントロールとし、蛍光観察実験およびESR(Electric SpinResonator:電子スピン共鳴装置)によるラジカル測定実験を行う。
本研究では、照射マイクロ波として、ISM帯の2.45GHzでは連続波(CW)およびパルス変調波(Pulse)、移動体通信に用いられる900MHz帯においては、連続波およびGSM、PDC、cdma2000、パルス変調波を用いる。
生体ラジカルの検出は、平成16年度までの研究においてその有効性および検出感度について検討を行った電子スピン共鳴装置(ESR)およびDCFH-DA蛍光観察法を用いて行った。
実験の結果は、いずれの測定においても紫外線の場合と比較して、マイクロ波を照射した場合では明確なラジカル発生は確認されなかった。
また、血球細胞におけるラジカル発生は、温度上昇が支配的であり、周波数帯および変調方式によらずマイクロ波照射による直接的な生体ラジカル発生影響は観測されなかった。