4.ペルチェ素子による高精度温度制御
4.1 はじめに
前項までに、熱解析結果を応用し、電磁界ばく露によるHSP70の発現量についての詳細な解析を行った。
しかしながら、発現量の温度依存性近似曲線の正当性、推定値に用いた温度分布の妥当性、蛍光ファイバー温度計の誤差など、最終的な結論に至るには解決しなければならない問題が残っている。
このような問題を解決するために、我々はペルチェ素子による高精度温度制御を提案する。
ペルチェ素子とは、熱エネルギーと電気エネルギーの直接相互交換を行う半導体素子である。
ペルチェ素子による温度制御により、高電力の電磁界ばく露によっても、培地底面が常に一定温度に保たれていれば、近似曲線などによる発現量推定を行う必要がなくなり、以上のような問題が解決されることが期待される。
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アルミニウム下部の境界条件を変化させることで、ペルチェ素子による温度制御を検討した。
図4.11(b)に示すようにペルチェ素子1が内側、ドーナツ状のペルチェ素子2が外側に配置されている。
この条件でそれぞれのペルチェ素子の温度を変化させ、培地内の温度分布を均一にできる条件を走査した。
これにより、同心円状のペルチェ素子では、内側のペルチェ素子の半径18mm、 制御温度が36.2℃、外側のペルチェ素子の半径23-45mm、制御温度が35.6℃の条件が最も均一な温度分布になることが確認できた。
しかしながら、同心円状のペルチェ素子は、技術的な問題で製作が困難であることから、次にドーナツ状(図4.12(b))のペルチェ素子を検討した。
図4.12 培地の高さ7mm時のペルチェ素子の形状設計計算モデル2
(a) 培養容器付近の断面図:3mm厚のドーナツ状のアルミニウムの突
起の上にペルチェ素子を配置する
(b) (a)を底面から見た場合のペルチェ素子の配置:ペルチェ素子はド
ーナツ状になっている
図4.12は培地の高さ7mm時のペルチェ素子の形状設計計算モデル2を示す。培養容器底面には厚さ5mmのアルミニウムがあり、培地の高さ7mm時のばく露においてもっとも温度が上昇する中心から30mm付近を効率的に冷やすことができるように、ドーナツ状のペルチェ素子を下部に設置することを想定する。
アルミニウムには、ペルチェ素子の熱を効率よく培養容器に伝達することができるように、厚さ3mmの突起をつけた。
その突起部分の境界条件を変化させることで、ペルチェ素子による温度制御を検討した。
図4.13 培地の高さ7mm時の5000秒後の細胞位置での温度分布
(ドーナツ状25-45mm幅のペルチェ素子使用時、入射電力は1W)
図4.13に培地の高さ7mm時の5000秒後の細胞位置での温度分布を示す。
この結果は、前回のモデル1での結果を踏まえ、幅25-45mmのドーナツ状ペルチェ素子を用い、ペルチェ素子の制御温度を34.6℃、インキュベータの温度を36.0℃としたときの結果である。
この結果から、培地の高さ7mmの場合は、幅25-45mmのドーナツ状のペルチェ素子により、効果的に温度制御ができることが明らかになった。
4.2 ペルチェ素子の形状設計
4.2.1 培地内のSARならびに熱解析
細胞位置での温度分布を一定に制御するために、ペルチェ素子の形状を数値計算によって求める必要がある。
そのため、培地内部の温度分布を解析し、ペルチェ素子の形状によってどのように依存するかを検討しなければならない。
ここでは、昨年度の報告書第5章に記載の解析手法を用いて、培地内のSAR分布、温度分布などを求め、 ペルチェ素子による温度制御に最適な条件を走査した。
培地内のSAR分布ならびに温度分布は
培地の厚さに依存するため、培地の高さを1mm~10mmまで1mm刻みで変化させ、その内部のSAR分布、電磁界分布、温度分布を解析した結果を以下に示す。
また、各条件でのSAR分布を定量的に評価した表を以下に示す。
表4.1 培地の高さ1mm~6mm時の定量的SAR分布評価
図4.1~4.10を検討すると、培地の高さ1、5、6mmの時が中心付近の温度分布が一様に高くなっているため、市販されている円形型ペルチェ素子での温度制御がしやすいと考えられる。この3通りの培地の高さのなかでは、表4.1、表4.2から6mmの培地の高さが平均SARが最も大きく、効率の面からも適しているのではないかと考えられる。
このことから、前年度で実験していた培地の高さ7mmの条件と、数値計算によって明らかになった6mmの条件で、ペルチェ素子による温度制御機構を作成するためのペルチェ素子の形状設計を検討する。
4.2.2 培地の高さ7mm時におけるペルチェ素子の形状設計
前年度で実験を行っていた実験結果を有効に活用し、ペルチェ素子の効果を検討するために、培地の高さ7mm時におけるペルチェ素子の形状設計を行った。
図4.11 培地の高さ7mm時のペルチェ素子の形状設計計算モデル1
(a)培養容器付近の断面図
(b)(a)を底面から見た場合のペルチェ素子の配置
図のようにペルチェ素子は同心円状に配置されている。
図4.11は培地の高さ7mm時のペルチェ素子の形状設計計算モデルを示す。培養容器底面には厚さ5mmのアルミニウムがあり、培地の高さ7mm時のばく露においてもっとも温度が上昇する中心から30mm付近を効率的に冷却し、中心付近は抑制的に冷却するために、同心円状に温度制御が可能なペルチェ素子を想定する。