32:電波ばく露による生物学的影響に関する評価試験及び調査 | 化学物質過敏症 runのブログ

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2.5 数値計算に基づく発現量推定
前2.4項で求めたHSP70の温度依存性発現量比率と数値計算結果に基づき、不均一な温度場に対するHSP70の発現量が推定できる。

細胞培養容器内に細胞が一様に分布していると仮定すると、図2.6で示されるように培地底面の温度Tbt℃は培養容器の中心からの距離rmmの関数になるので、培養容器の中心からの距離rにおける遺伝子発現量比率はf (Tbt (r))である。





ここでTbt(r)は培地底面温度の細胞培養容器中心からの距離rに依存する関数であり、f(T)は(1)式で示された関数である。

これを培養容器の底面全面で積分すると培養容器内の総遺伝子発現量比率が(2)式のように求められる。

ここで、RはHSP70相対発現量の推定値、f (T0)rdr 0
A ∫ はコントロールにおける培養容器内の総遺伝子発現量比率であり、ここではT0=37℃とした。
(3)式で示されるHSP70相対発現量推定式に基づき、推定値ならびに実験結果を比較したグラフを以下に示す。
図2.8




図2.8 HSP70相対発現量比率推定式ならびに
実験によって求めたHSP70相対発現量の比較
左側が実験値、右側が推定値である。

エラーバーは標準偏差を示す。
ここでは、shamばく露の推定値を求めるにあたり、細胞位置での温度が37.4℃であるとして求めた。これは後述する高さ方向の温度不均一性を考慮した補正であり、実測値を繰り込んでいる。

インキュベータの設定値が37.0℃より高くなっているのは、インキュベータ庫内では高さに依存する温度分布があり、ばく露装置内の細胞容器位置での温度は実測によると37.4℃程度である。

2.4項の図2.7に関してshamばく露で温度上昇が起こっているのはこのインキュベータ内の温度が高さ方向に不均一であることが原因であると考えられる。
全般的に、発現量比率の実測値は推定値よりも上回っていることが見て取れるが、5W/kg、10W/kgのばく露では推定値をやや上回っており、非熱的な作用による影響が示唆される。

しかしながら、図2.5における近似曲線の正当性、推定値に用いた数値解析に基づく温度分布の妥当性、また使用した蛍光ファイバー温度計の誤差などを含めて考えると、最終的な結論を出すにはさらに物理的環境を統制した条件での実験が不可欠である。