・
2.3 実験の概要
ばく露に使用した細胞はJCRB (Japanese Cancer Research Resources Bank)にて入手したチャイニーズハムスター卵巣由来のCHO-K1細胞である。本実験では熱ショックタンパク(HSP:Heat Shock Protain)の1種であるHSP70について遺伝子レベルでの発現を定量的に検出する。HSP70が遺伝子レベルで発現する場合、細胞中に存在するDNAからHSP70の塩基配列がmRNA(メッセンジャーRNA)へ転写される。
つまりHSP70の遺伝子発現を観測するにはHSP70の塩基配列を持つmRNAを定量的に検出出来ればよい。
mRNAを定量的に観測するために、ここではリアルタイムRT-PCRという手法を用いる。PCR(Polymerase Chain Reaction)は目標とする塩基配列(ここではHSP70の塩基配列)を持つDNAを増幅するための手法である。
PCRではmRNAを直接増幅出来ないため、mRNAをDNAに逆転写(RT:Reverse Transcription)する必要がある。
mRNAの塩基配列をDNAへ一度逆転写し増幅する手法をRT-PCRという。
ただし通常のRT-PCRでは遺伝子発現の定量化が出来ない。
ここでは遺伝子発現量を定量化するために、目標遺伝子の増幅量を時間的に追跡し、そこから最初の遺伝子の量を推定できるリアルタイムRT-PCRを用いている。
リアルタイムRT-PCRで遺伝子発現量の定量化を行う場合に、基準となる遺伝子を用いてデータの規格化を行う必要がある。
この基準となる遺伝子のことを内在性コントロールと呼び、実験条件や実験処理法によって発現量が変動しない遺伝子を選ぶ必要がある。
内在性コントロールには多くの細胞で常に一定量発現すると考えられているGAPDH(グリセロアルデヒドリン酸脱水素酵素)遺伝子を使用した。
2.3.1 実験手順
実験の手順は次の通りである
① 培養容器内に細胞を1×10 6 cells/dishで播種
② インキュベータ内で一晩培養(37℃、5% CO2、湿度100%)
③ インキュベータ内に設置したばく露装置に培養容器を配置し2.45GHzにてばく露(ばく露条件は、培地底面の平均SARを5W/kg、10W/kg、shamとし各4時間のばく露を行う)
④ ばく露後すぐにセルスクレーパーを用いて培養容器から細胞をはがし、RNA抽出装置(QIAGEN社 BIO ROBOT EZ1)で細胞から目的の遺伝子を含む全てのRNAを抽出
⑤ 吸光光度計でRNA濃度を測定した後、-80℃で凍結保存
⑥ すべてのばく露が終了した後、RNAを解凍してリアルタイムRT-PCR装置
(ABI PRISM7000、Applied Biosystems) にかけて、その結果からHSP70の
遺伝子発現を法を用いて解析 t ΔΔC
本実験では、5W/kgと10W/kgのばく露条件においてサンプル数を10枚とし、shamばく露の条件においてサンプル数を5枚とした。