21:電波ばく露による生物学的影響に関する評価試験及び調査 | 化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 電磁波過敏症 シックスクール問題を中心としたブログです

5. 脳微小循環動態への影響の直視的評価試験

Ⅰ 要旨
脳循環系に及ぼす電磁波の影響評価は多くの研究者によって進められている。

これらの研究では、脳循環の指標となるパラメータを電磁波ばく露の前後で計測し、その変化について評価している場合が多い。

したがって、電磁波ばく露中にのみパラメータ変化を生じるような一過性反応が存在する場合は、従来の方法では電磁波による影響を検出できない可能性がある。

そこで、本研究では、ラット脳軟膜微小循環動態を電磁波ばく露中に観察できる方法を開発し、各種脳微小循環動態指標に及ぼす電磁波の影響を評価した。

さらに、電磁波の及ぼす生体影響が未成熟の脳ではより強く生じることが懸念されているため、幼若ラットと成熟ラットを対象に検討し、それぞれの結果を比較した。
今年度は、脳微小循環動態指標のうち白血球挙動および細動脈血管運動を評価対象とした。そ

の結果、いずれの指標においても電磁波ばく露中の一過性反応は認められなかった。

また、成熟ラットだけでなく幼若ラットにおいても同様の結果を得た。

Ⅱ 研究目的
脳循環系に及ぼす電磁波の影響が懸念されている。

これまでに、血液脳関門(BBB)透過性および血流量について電磁波ばく露影響が報告されている。BBB透過性に及ぼす影響については、1994年にSalfordらによって示された[1]。

電磁波ばく露後のラット脳において血中アルブミンの血管外漏出が認められ、電磁波ばく露によるBBBの透過性亢進が示唆された。

血流量への影響については、 Huberのグループが、ヒトボランティアの脳血流量が電磁波ばく露後に増加することを認め、電磁波ばく露が脳血流に影響を及ぼすことを示唆している[2,3]。

これらの報告を背景として、現在WHO・EMFプロジェクトでは、電磁波ばく露による中枢神経系血流変化に関する研究を優先的研究課題の一つとして掲げている[4]。
我々のグループでは、ラット脳微小循環動態を電磁波ばく露後に観察し、電磁波ばく露がBBB透過性および脳血流に影響を及ぼさないことを既に報告している。

BBB透過性および脳血流を含む脳微小循環動態を直視的に観察できる長期埋込型cranialwindow法を開発し、微小循環動態指標を電磁波ばく露後に検討した。

その結果、防護指針値レベルである脳平均SAR2.0W/kgの電磁波では、10分間の短時間ばく露条件だけでなく、1日1時間のばく露を4週間継続した長期ばく露条件においても、微小循環動態指標としたBBB透過性・脳血流・白血球挙動に対して影響が認められなかった。
さらに我々は、電磁波ばく露中に生じる一過性反応にも着目してきた。

この一過性反応とは、電磁波ばく露中にのみ惹起される生理的変化のことを指し、ばく露後の影響を評価する従来の研究手法では検出できない反応である。

この一過性反応を評価するには評価対象の観察を電磁波ばく露と同時に行う必要がある。

そこで我々は、平成14年に本研究課題を立ち上げ、ラット脳微小循環を対象にこの一過性反応の有無を検討してきた。
これまでに、観察およびばく露を同時に行えるシステムの開発を終了し、幼若および成熟ラットのBBB透過性、血流速度、血管径(細静脈)については防護指針値レベルの電磁波影響が認められないという結果を得ている。
今年度は、脳微小循環動態指標のうち上記以外の白血球挙動および細動脈血管運動について評価した。

白血球は免疫系に関与し、脳内の生理的環境変化に応じてその挙動を変える。

また、細動脈の血管運動は、脳神経活動などに依存して脳血流量を局所的に調節する。

したがって、電磁波ばく露中の脳内変化がこれら二つの指標に対して反映されると考えられる。

そこで本研究では、ラット脳微小循環を対象に、電磁波ばく露中の白血球挙動および細動脈血管運動をリアルタイム計測し、これら指標に対する影響を評価した。

さらに、電磁波の及ぼす影響が脳の成熟度に依存する可能性が指摘されていることから、週齢の異なるラットを用いた評価も合わせて行った。
本報告書では、白血球挙動および血管運動計測のために新たに構築した観察システムを説明すると共に、4および8週齢のいずれのラット脳微小循環においても電磁波ばく露中の一過性反応が認められなかったことを示す。