11:電波ばく露による生物学的影響に関する評価試験及び調査 | 化学物質過敏症 runのブログ

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Ⅵ 考 察
ミリ波は大気で吸収されるために、電波が遠方に到達しにくい。電波利用の際にはこの特長が、混信や妨害を受けにくくするものとして通信手段への利用が考えられている。
ミリ波帯(30-300GHz)は、センシング、計測、エネルギーなどの様々な分野で利用されつつあるが、今後は特に通信・放送などの分野での利用が期待される。
ミリ波ばく露による眼傷害については、今までにいくつかの報告(S. W. Rosenthal etal., 1976[2]、H. A. Kues, et al., 1999[3]、S. Chalfin, et al., 2002[4])がある。

これらの報告は、周波数、使用実験動物が異なるため単純には比較できないが、60GHz、10mW/cm2のばく露では眼傷害は発生しないとするもの(H. A. Kues, et al., 1999[3])、角膜傷害は35GHzでは7.5J/cm2(2000mW/cm2で3.75秒ばく露に相当)、94GHzは5J/cm2(2000mW/cm2で2.5秒ばく露に相当)で発生するが24時間以内に治癒するとするもの(S. Chalfin, et al., 2002[4])、角膜上皮傷害(5-50mWでは、35GHzは殆どの症例で認めるが、107GHzではまれである)と角膜実質の浮腫(35、107GHzともに5-50mW)が見られるが一過性のもので翌日には快方に向かうとする報告(S. W.Rosenthal et al., 1976[2])で、何れの報告も軽度の眼傷害の報告のみである。

高強度のミリ波がばく露された際にどのような眼傷害が生じ、その傷害がどのような経過を辿って治癒するかの詳細な報告は未だない。
本研究の第一の目的は、60 GHz 5W発信機に焦点距離15cmのレンズアンテナを組み合わせたばく露装置を用い、前年度に作製したミリ波ばく露による急性眼傷害のモデルでの急性眼傷害の程度、経過、治癒過程を指標として、それらの急性眼傷害が発症する閾値を求めることである。
3000mW/cm2 6分間ばく露による急性眼傷害は、虹彩の縮瞳、虹彩血管拡張、角膜混濁、角膜上皮傷害、毛様充血であった。

虹彩の縮瞳、毛様充血は眼内の炎症、虹彩・毛様体炎に起因するものと思われ、これらの炎症の度合いは、レーザー・フレアメーターで定量的測定が可能であった。

3000mW/cm2 6分ばく露群では、ばく露眼と非ばく露眼の間に眼内フレア値の統計的な有意差(P<0.01)を認めたが、1500mW/cm2群では有意差を認めなかった。

形態学的検討より1500mW/cm2ばく露実験でぶどう膜炎症状が観察された家兎は、軽度の虹彩の縮瞳(1羽/8羽)、虹彩血管拡張(2羽/8羽)、微かな毛様充血(3羽/8羽)のみで、その他の家兎眼では明らかな炎症症状を示さなかった。
一方、個々のフレア値データでは、47.2、40photon counts/msと明らかな異常フレア値を示した家兎は2羽のみで、他の6羽は7.2-15.6 photon counts/msと正常またはほぼ正常域であった。

従って、500mW/cm2 6分のばく露条件では、炎症誘発の有無は家兎の個体差に大きく左右されるものと思われた。
ミリ波傷害の指標として、角膜上皮蛍光染色(Rosenthal[2]ら、Chalfin[4]ら)が先人の研究でも検討されている。

しかし、角膜上皮傷害をミリ波ばく露による眼傷害の検討の指標にするには幾つかの問題点がある。我々の検討では、新規購入家兎の47.2%(50眼/106眼)で角膜上皮傷害を認めている。

本実験では実験開始前の観察で角膜上皮傷害を認めた家兎に対しては治療を行い、角膜が正常状態に復してから実験に供した。

しかしながら、実験中の家兎は全身麻酔が施されているので、実験中に機械的な角膜上皮傷害が起こることも稀ではない。
角膜上皮傷害の定量化は、現時点では困難である。

その理由として、蛍光薬投与後の蛍光色素の洗浄が一定に出来ないこと、励起光の強度がランプ、電圧等の変化、蛍光色素を励起する光の方向と動物の向きが常に一定でないこと、ばく露以外の要因、例えば、開瞼を保持することに起因するドライアイでの傷害等不確かな要素が多数ある。

今回のばく露時間を6分間と短時間にした理由も、ばく露中の乾燥による角膜上皮傷害を避けるためであった。

以上の諸条件をふまえた上での6分間のばく露条件下では、角膜上皮細胞傷害は、ばく露1日後以降にばく露眼のばく露部位にのみ発症したことより、本所見はミリ波ばく露に伴うものと思われた。
ミリ波の吸収エネルギーは他の周波数に比べて、人体の表面組織に集中することが知られている。

しかし、本検討では、3000 mW/cm2の6分間ばく露直後に、8羽中7羽、1500mW/cm2のばく露でも8羽中2羽に虹彩血管拡張が認められ、虹彩血管蛍光造影で、蛍光性の漏出が観察された。

また、3000 mW/cm2 6分間ばく露3日後の水晶体上皮伸展標本所見からは、瞳孔領に分裂期の細胞が多数見られたことより、本条件のばく露による熱作用が房水を介して、虹彩、更には水晶体(角膜から約3-4ミリの部位)まで及ぶことが示唆された。
これらの機序は現時点では、角膜で吸収された熱が房水の対流を介して熱伝達したと推定しているが、この点について更なる検討が必要と考える。
以上より、60GHz 6分間ばく露による眼傷害発生の現時点での推定閾値は800mW/cm2未満で100mW/cm2を越える範囲にあると考えられるが、明確な閾値決定には更なる検討が必要である。
また、最大入射電力密度を一定(800mW/cm2)にして、準ミリ波帯の5種類の周波数のばく露前・中・後の眼内温度変化の実験および800mW/cm2 6分間ばく露による眼傷害出現の程度より、40GHzが最も眼に傷害を及ぼすことが推定された。

60GHzの検討では、800mW/cm2 6分間ばく露では5例中1例に一過性の角膜上皮傷害を認めたのみであったが、40GHzでは4例中全例に角膜混濁が誘発された。この傷害の差が周波数の相違によるものか、その他の要因によるものなのかは今後慎重に検討したい。

Ⅶ 文 献
1. E. P. Khizhnyak, M.C. Ziskin: Heating patterns in biological tissue phantomscoused by millimeter wave electromagnetic irradiation. IEEE Trans onBiomedical Engineering 41:19942. S.W. Rosenthal, L. Birenbaum, I. T. Kaplan, W. Metlay, W. Z. Snyder, M. Zaret:Effects of 35 and 107 GHz CW microwaves on the rabbit eye. In. Biological
effects of electromagnetic waves. HEW Publication (FDA), Rockvill, MD, pp110-128, 1976
3. H.A. Kues, S.A. D’Anna, R. Osiander, W. R. Green, J. C. Monahan: Absence ofocular effects after either single or repeated exposure to 10 mW/cm2 form a 60
GHz CW source. Bioelectromagnetics 20: 463-473, 1999
4. S. Chalfin, J. A. D’Andrea, P. D. Comeau, M.E. Belt, D. J. Hatcher: Millimeterwave absorption in the nonhuman primate eye at 35 GHz and 94 GHz. HealthPhysics, 83:83-90, 2002
5. 今野 豪、熊原 亮、花澤理宏、和氣加奈子、渡辺聡一、徳永 類、鈴木敬久、多氣昌生、白井 宏:レンズアンテナを用いたミリ波ばく露装置の開発 信学技報 1:77-82, 2005