Ⅳ 試験結果
実験1:ミリ波ばく露実験
(1) 3000mW/cm2 6分ばく露
図6に焦点距離15cmのレンズアンテナを介して3000mW/cm2のミリ波を家兎の片眼にばく露した際の眼傷害の経過を示した。
ばく露直後より虹彩の縮瞳、毛様充血、虹彩血管の拡張を認め、ばく露により前眼部ぶどう膜炎が誘発された。
ばく露1日後より角膜混濁、角膜上皮傷害、毛様充血を認めた。
ばく露3日後には角膜混濁、毛様充血がピークを迎え、それ以降には各所見は徐々に軽快したが、ばく露7週間後には角膜混濁は瘢痕化した。
角膜上皮傷害はばく露1日後にピークを迎え、ばく露部位に一致した部位の角膜上皮細胞に欠損が観察されたが、ばく露3日後には角膜上皮欠損領域は縮小していた。
角膜上皮傷害は、軽度ながらもばく露8日目まで観察され、その後治癒した。
上述の所見は8羽中8羽、全例に認めた。
虹彩血管が拡張した家兎に虹彩血管蛍光造影を行ったところ、ばく露部位の虹彩血管から著しい蛍光色素の漏出を認め(図7)、ばく露により血液-房水柵が破綻されたことを示す所見が得られた。
図6 3000mW/cm2ばく露による眼傷害の経過
図7 3000mW/cm2ばく露眼の虹彩血管蛍光造影
図8に3000mW/cm2 6分ばく露3日後の水晶体上皮伸展標本(瞳孔領中心部)を示す。
正常水晶体では認められない瞳孔領中心部に分裂期の細胞が見られることより、ばく露により、なんらかの傷害が水晶体に及んだことを示唆する所見が得られた。
図8 3000mW/cm2ばく露3日後の水晶体上皮伸展標本
(2) 1500mW/cm2 6分間ばく露
図9に焦点距離15cmのレンズアンテナを介して1500mW/cm2のミリ波を家兎の片眼にばく露した群の中で、最も重篤な眼傷害を示した家兎の経過を示した。
ばく露直後より軽度の虹彩の縮瞳(1羽/8羽)、虹彩血管拡張(2羽/8羽)を認めたが、その他の眼炎症所見は認めなかった。
ばく露1日後より角膜混濁(3羽/8羽)、軽度の角膜上皮傷害(5羽/8羽)、微かな毛様充血(3羽/8羽)を認めた。
ばく露3日後には上記の所見は消失していた。
ばく露8日後、3週間後、7週間後まで観察を行ったが、ばく露眼、非ばく露の反対眼ともに正常所見を呈した。
図9 1500 mW/cm2ばく露による眼傷害の経過
(3) 800、100、10mW/cm2 6分間ばく露
電磁波ばく露後の眼傷害の発生、推移、傷害の治癒過程について3000および1500mW/cm2群の所見を指標として、眼傷害消失の閾値を検索したところ、800mW/cm2ばく露群において、微かな一過性の角膜上皮傷害が認められたが(1羽/5羽)、100、10mW/cm2ばく露群では、実験に供した4羽すべてで、角膜上皮傷害、眼内の炎症発生を示す縮瞳所見、眼内フレアの上昇などは実験期間を通じて見られなかった。
図10に各ばく露群の眼内フレア値の変動を示した。
各ばく露群ともにばく露直後の方が、ばく露1日後よりもフレア値が高い傾向を示した。3000mW/cm2 6分ばく露群は非ばく露の反対眼より有意に高い(P<0.01)眼内フレア値を示し、眼内炎症を誘発していることを客観的に示したが、それ以外のばく露群、1500、800、100、10mW/cm2 6分ばく露では、ばく露群、非ばく露群の両者に統計的有意差は認めなかった。
図10 各ばく露の眼内フレア値の変動
実験2‐1:準ミリ波帯ばく露による眼内温度変化の検討
図11に周波数毎の眼内温度の変化を示した。
各周波数のデータは5-7眼のデータを平均化したものである。
最も高い眼内温度を示したのは40GHzで次いで35>22≒18>26.5GHzの順であった。
温度上昇が最も顕著に見られた眼組織は角膜で、水晶体でもばく露による若干の温度上昇が見られたが、硝子体、球後でのばく露による温度変化は認めなかった。
図11 周波数毎の眼内温度の変化
実験2‐2:準ミリ波帯ばく露による眼障害の形態学的検討
図12に各周波数を800mW/cm2 6分間ばく露1日後の眼傷害所見のまとめを示した。
18、22、26.5GHz群では眼内のぶどう膜炎惹起を示す縮瞳、毛様充血は無く、角膜混濁または角膜上皮傷害を示す蛍光染色所見も認めなかった。35GHzでは前眼部の炎症所見、角膜混濁は認めなかったが、瀰漫性の角膜上皮傷害を認めた(1羽/4羽)。40GHz群ではばく露直後より明らかな縮瞳を示し(4羽/4羽)、角膜混濁も4例全例に認めた。
ばく露後の眼傷害の程度を指標とした各周波数による眼傷害は、40GHzが最も重篤な傷害を示し、35GHzでは一過性の微細な角膜傷害を示したが、18、22、26.5GHzの条件でのばく露では、眼傷害は誘発されなかった。
図12 周波数と眼傷害
Ⅴ まとめ
1. 60GHz 5W発信装置に焦点距離15cmのレンズアンテナを装着し、3000mW/cm2の6分間ばく露により、一過性の角膜上皮傷害、前眼部ぶどう膜炎の症状である虹彩血管拡張、縮瞳が見られ、眼炎症が誘発された。
また、一過性の傷害が水晶体にも及ぶことが示唆された。
2. 3000、1500、800mW/cm2の電力密度で6分間のばく露では、ばく露量に依存した眼傷害の発生が認められたが、100、10mW/cm2のばく露では眼傷害の発現はなかった。
3. 眼傷害、眼内温度上昇を指標にした準ミリ波帯の予備検討では、40>(60)>35>18、22>26.5GHzの順で異常所見が見られた。今後40GHzでの検討が必要と思
れる。
