-2:(魂の中小企業)貧乏、難病、ど根性 | 化学物質過敏症 runのブログ

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時間旅行をつづけます。

高校を卒業した本間さんに会いにいきましょう。

会社に就職したんですね。

おめでとうございます。

 「あっ、トラベラーさん。本当は大学に行きたかったんです。でも、無理でしょ。だから、就職したんです」

 以前、会社を経営するって言っていましたけど……。

 「しーっ。そんなこと言える環境じゃないです。いいですか、22歳までに結婚しろ、と会社も世間もうるさいんですよ」

23歳になって結婚していないと、「ハイミス」。

25歳で独身だと、「オールドミス」という時代だった。

そんな時代に生きるOLである。

さらに、貧しかった子どものころの記憶もある。

 

なので、本間には、しあわせな結婚をして、しあわせな家庭をつくりたい、という思いが強くなっていく。

22歳で結婚、会社をやめた。

当時は、結婚イコール退職、だ。


 およそ10年、主婦をしつつ、家でタイプの内職。

子どももできた。

だが、夫婦の仲に亀裂が入っていく

原因は夫だった。

家を建てて引っ越してまもなく、離婚する。

家をもらい売却したので、まとまったカネが手に入った。


 住まいは、実家。手に入ったカネでマンションを買い、人に貸した。

その家賃が、懐にはいってきた。そして、実家にいるので、自分に何かあっても、親に子どもを見てもらえる。

デザイン事務所で働いた。

アメリカに短期留学して大学生気分も味わった。

帰国してからは、横浜のデパートで仕事をした。

ゴルフショップの臨時店員。ばつぐんな売り上げだったので、とあるショップの店長になってと頼まれた。

バイトのつもりなのでと断ったけれど、聞いてくれない。

1年だけという約束で店長をした。

     ◇

 タイムマシンは、1年後の本間さんを見つけました。

 これから、どこに行くんですか?

 「トラベラーさん。これから、エステの学校に行きます。じつは、こんなことがありまして……」

 ゴルフウェアの店長をしていたら、若い女性がこんな会話をしていた。

「30万円出して、エステに行き始めたんだ」

エステにそんなにお金を使うなんて、考えられない。

貧乏な子ども時代を過ごした自分には、エステなんて無縁な世界だ。


そう思っていた。

でも、ピンと来た。

エステの時代が来るかも。

そして、約束どおり店長を1年でやめ、エステの学校に通い始めたのだ。

卒業し、エステサロンで働いた。

くたくたになる日々。

なぜか、顔が黒くなっていった。

医師には、病気ではない、と診断される。

 黒い顔では仕事に行けない。自分がエステに行く。

そこで、子どものときの決意を思い出した。

 〈会社を経営して、だれにもバカにされない人間になる!〉

     ◇

 タイムマシンは1991年、42歳の本間さんがいます。

 サロン開業ですね、おめでとうございます。

 「ありがとうございます、タイムトラベラーさん。美顔と痩身(そうしん)のエステサロンです。ちょっと田舎ですが、本当にいいものをしていけば、お客さんは来ると信じています」

 中高年の女性客が、ついた。

ただ、美顔の施術をしていると、髪の毛がずれる人がいた。

かつらをつけているのだ。

本間は気がつかないふりをした。

髪の毛を生やしてあげたい、と思った。

そして、発毛をしている会社から機材やノウハウを提供してもらい、発毛と育毛のコースもはじめた。

こうして、健康サロンとしての形を整えていく。


 初めは女性専門だったが、女性客から「うちの息子もお願い」と頼まれるようになった。

そんな頼みを聞いているうちに、本格的に男性客も受け入れるようになった。

「タイムトラベラーさん。こうして、しあわせに暮らしましたとさ、めでたしめでたし、では終わらないですよねえ。わたしの半生を、わざわざ見に来たのですから」

 そうです、残念ですが。そ

れは、10年後に、本間さんの身に起こります。

     ◇

開業してから10年。サロンの経営は順調です。

間さん、何かひらめいたようです。

どうしました?

 「トラベラーさん。10年目のご褒美として、自分に何か残そうと思うんです」

 やめておいた方がいい気が……。

おっと、タイムトラベラーの掟(おきて)を破るところでした。

過去の出来事に手を加えてはなりません。

 本間は、神奈川の葉山に、別荘を買った。

御用邸が見下ろせる丘にある、すばらしい別荘だった。

 家のドアをあけて中に入る。

窓をあける。

カビだらけだった。

畳もかびていた。

ずっとしめっきりだったからだ。

かびを全部とって、板の間をとりかえてもらって、住めるようにした。

引っ越して、荷物をすべて入れた。

お気に入りだった高級家具なども。


 住み始めた。かびのにおいがする。

相談すると業者は、超強烈な防かび剤を、家中に噴霧した。

その霧が、家中に漂った。

ある霧は、畳に浸透していく。ある霧は、壁の中へ。

ある霧は、木製の家具の中へ。

ある霧は、金属などに付着する。

 そして……。

 本間もまた、その霧を大量に吸い込んでいくのだった。

 本間さんが、胸をおさえています。

 どうしました?

 「トラベラーさん。心臓がばくばくするんです。これまで病気をしたことがなかったんですが」

 本間さんが目をおさえています。

 大丈夫ですか?

 「わたし、視力は1・5なんです。でも、見るものすべてがぼやけているんです。まるで、すりガラスを通して見ているみたい」

 

とにかく医者に行きましょう。


 診断は、化学物質過敏症という過酷な難病だった。

専門の病院に行って、かかっていることを確認した。