多発性硬化症で神経が傷つけられる仕組みを解明2 | 化学物質過敏症 runのブログ

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<研究の背景>
多発性硬化症の病変は脳、視神経、脊髄などに広範に分布し、さまざまな神経症状を呈します。

また、この症状は再発と寛解注4)を繰り返すという特徴もあります。

この病気では再発を繰り返すうちに、徐々に神経機能障害からの回復が困難な状態になります。

これまで多発性硬化症は脱髄疾患と呼ばれ、神経細胞の軸索を取り巻く髄鞘注5)が傷つけられると考えられてきましたが、最近の研究によって、発症初期から神経細胞が傷つけられていることがわかってきました。

中枢神経はひとたび損傷を受けると再生は困難なため、神経傷害を抑えることが治療を考えるうえで非常に重要になります。

しかし、炎症部で生じる神経傷害のメカニズムは十分に解明されていませんでした。

RGMaたんぱく質は、発生期の神経回路の形成に関わることが知られている一方、免疫反応にも関与していることが近年の研究で明らかになっています。

本研究グループは、免疫システムの司令塔であるヘルパーT細胞注6)の1種がRGMaを強く発現していることを突き止め、ヘルパーT細胞が発現するRGMaの役割を明らかにすることを目的に本研究を開始しました。


<研究の内容>
ヘルパーT細胞は、その特性によっていくつかの種類に分かれています。マウスの脾臓から採取した未分化なヘルパーT細胞をそれぞれの種類のT細胞に分化させて、RGMaの発現量を調べたところ、Th17細胞注7)と呼ばれるT細胞がRGMaを強く発現していることを見いだしました(図1)。

Th17細胞は多発性硬化症の発症に重要な細胞であることが知られています。

そこで、Th17細胞に発現しているRGMaが、多発性硬化症においてどのような役割をもっているかを明らかにするため、次のような実験を行いました。

まず、中枢神経で活性化するTh17細胞を、マウスから取り出して培養し、別のマウスに移植して多発性硬化症に類似した脳脊髄炎を誘導します。

次に、Th17細胞を移植されて脳脊髄炎を起こしたマウスに対して、RGMaの機能を阻害することができる抗体注8) を投与し、病状がどのように変化するのかを検討しました。

その結果、RGMa中和抗体を投与されたマウスでは、四肢の麻痺などの症状が改善しました(図2)。

さらに、このマウスの脊髄を観察したところ、RGMa中和抗体の投与を受けたマウスでは、炎症部における神経細胞の傷害が少なくなっていました(図3)。

この実験結果は、Th17細胞が発現するRGMaが脳脊髄炎による神経細胞傷害を悪化させていることを示唆しています。

脳脊髄炎の炎症部では、Th17細胞が直接神経と接触していることがわかっています。

また、RGMaは細胞膜上に存在するたんぱく質です。

Th17細胞がRGMaを介して直接的に神経細胞を傷つけているのかを検討するため、Th17細胞と神経細胞の培養実験を行いました。Th17細胞と一緒に培養した神経細胞は死んでいく様子が多く観察されたのに対し、RGMa中和抗体とともに培養すると、Th17細胞による神経細胞死が抑制されました(図4)。

また、Th17細胞の培養液のみでは神経細胞死が観察されませんでした。この実験結果により、Th17細胞はRGMaを介した直接的な接触により神経細胞を傷つけていることが示されました。

本研究はTh17細胞が神経を傷つけるメカニズムを明らかにしたものであり、RGMaを阻害することが、多発性硬化症の神経傷害に対して有効な治療法となりうることを示したものです(図5)。

<今後の展開>
近年、Th17細胞は多発性硬化症のみでなく、視神経脊髄炎注9) やアルツハイマー病注10) など、さまざまな脳神経疾患の病態に関わっていることが報告されています。

今後、これらの脳神経疾患におけるTh17細胞の役割がより詳細に明らかになることで、有効な治療法が開発されることが期待されます。