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http://www.jst.go.jp/pr/announce/20141114/index.html
プレスリリース
多発性硬化症で神経が傷つけられる仕組みを解明
~神経疾患に対する新たな治療法開発に期待~
ポイント
多発性硬化症の神経傷害機構は十分に解明されていなかった。
神経傷害に関わる主要な細胞と分子を特定し、そのメカニズムを突き止めた。
多発性硬化症の神経症状を改善する新規治療法開発につながることに期待。
JST 戦略的創造研究推進事業において、大阪大学 大学院医学系研究科の山下 俊英 教授らは、多発性硬化症注1)で中枢神経が傷つけられるメカニズムを発見しました。
多発性硬化症は免疫系の異常によって中枢神経に炎症が生じ、神経が傷つけられる難病で、手足の麻痺や感覚異常、視覚障害など重篤な症状が現れます。
免疫系細胞が中枢神経に侵入して炎症を起こすことが神経傷害の原因であることはわかっていましたが、なぜ炎症によって神経が傷つけられるのかという仕組みは不明でした。
本研究グループは、多発性硬化症に類似する脳脊髄炎注2)を発症するモデルマウスを用いて、炎症による神経傷害には「RGMa注3)」と呼ばれるたんぱく質が関与すること、さらにある特定の免疫細胞がRGMaを介して神経傷害を引き起こすことを明らかにしました。
RGMaの働きを抑制する中和抗体の投与によって、脳脊髄炎による神経傷害を改善させることに、マウスの実験で成功しました。
今回の研究成果により、多発性硬化症をはじめとした炎症を伴う中枢神経疾患に対する新規治療薬の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2014年11月13日(米国東部時間)に米国科学誌「Cell Reports」のオンライン速報版で公開されます。
本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域 「脳神経回路の形成・動作原理の解明と制御技術の創出」
(研究総括:小澤 瀞司 高崎健康福祉大学 健康福祉学部 教授)
研究課題名 「中枢神経障害後の神経回路再編成と機能回復のメカニズムの解明」
研究代表者 山下 俊英(大阪大学 大学院医学系研究科 教授)
研究期間 平成22年10月~平成28年3月
JSTはこの領域で、脳神経回路の発生・発達・再生の分子・細胞メカニズムを解明し、さらに個々の脳領域で多様な構成要素により組み立てられた神経回路がどのように動作してそれぞれに特有な機能を発現するのか、それらの局所神経回路の活動の統合により、脳が極めて全体性の高いシステムをどのようにして実現するのかを追求します。
またこれらの研究を基盤として、脳神経回路の形成過程と動作を制御する技術の創出を目指します。
上記研究課題では、脳の障害後に代償性神経回路が形成される分子メカニズムを解明するとともに、神経回路の再編成を促進することによって、失われた神経機能の回復を図る分子標的治療法の開発を行います。