・出展:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
http://kokumin-kaigi.org/
・「内分泌攪乱物質の科学の現状2012年版」の紹介
1.環境ホルモン問題は世界的な脅威
1990年代後半、環境ホルモン問題が世界的に注目を浴び、日本でも大きな問題として取り上げられましたが、2000年に入ると「環境ホルモン問題は空騒ぎ」と言われるようになってしまいました。
しかし、決して環境ホルモンは空騒ぎだったわけでも、終わったわけでもありません。
2002年、化学物質への国際化学物質安全性計画(IPCS)は、「内分泌攪乱物質の科学の現状に対する地球規模の評価」(2002年報告書)を発表しました。
その後も、世界では着々と研究が続けられており、環境ホルモン問題は、当初の研究でわかっていたものよりも、はるかに広範囲に、深刻な影響を及ぼしていることが明らかになっています。
「内分泌攪乱物質の科学の現状2012年版」(2012年報告書)は、世界環境計画(UNEP)と世界保健機構(WHO)が事務局となり、世界各国の環境ホルモン研究者で構成されるワーキンググループが作成したもので、2002年報告書から約10年間に新たに分かったことについて、研究者らの共同見解をまとめたものです。
2012年報告書は、環境ホルモン問題を「解決をしなければならない世界的な脅威」と位置づけ、予防原則にのっとり、早急に対策を取ることを求めています。
非常に興味深く、かつ、重要な報告書ですので、本ニュースレターで概略をご紹介します。
「内分泌攪乱物質の科学の現状2012年版」の紹介
なお、2012年報告書は、約300ページにわたる大部なものですが、意思決定者向けの要約版も用意されています。
国立医薬品食品衛生研究所のホームページに、報告書全文(英語)、要約版(英語)と要約版の日本語訳が掲載されています。以下のURLから閲覧できますので、ぜひお読みください。
(http://www.nihs.go.jp/edc/houkoku/index.htm
)
2.この10年で分かったこと
(1)人体への影響
2002年報告書では、環境ホルモン問題について、環境ホルモンが通常のホルモン分泌過程に影響を与えることは明らかであり、いくつかの野生生物について悪影響を与えるということができるものの、人体への悪影響については、当時は、まだ弱い証拠しかないとされていました。
しかし、2012年報告書では、生殖器の発達と機能を制御するものから代謝や満腹を調節するものにまで、幅広く、ホルモン系全体が環境ホルモンの影響を受ける可能性があると考えられるようになりました。
具体的には、環境ホルモンは人にも悪影響を与え、肥満、不妊、出生率の低下、学習・記憶障害、糖尿病または心臓血管系疾患などのいわゆる生活習慣病など、さまざまな疾病を引き起こしている可能性があるということが分かってきました。
過去10年間に研究の重点は、大人が環境ホルモンにばく露したときに起こる病気から、胎児や子どもなど、発達期に環境ホルモンにばく露したことが、その後、どのように影響を与えるかということとの関連の研究に変わっています。
たとえば、動物でも人間でも、胎児期から思春期にかけて環境ホルモンにばく露したことが、その後、生殖器疾患、内分泌系に関連する癌、ADHDなどの行動・学習障害、感染症、また肥満や糖尿病の増加に関係することを示す研究結果が報告されています。
一つの物質だけでは問題が生じない場合であっても、いくつもの環境ホルモンに同時にばく露されることで相加効果が生じる場合があることも明らかになりました。
また、環境ホルモンは、濃度が濃くなるほど影響が大きくなるというわけではなく、非線形的な影響が見られることが確認されています。
疫学的な研究結果からも、現在のばく露レベルで内分泌系疾患または障害が発生していることから、今まで安全と考えられていたレベルでは、もはや安全ではないと考えられると指摘しています。
(2)野生生物への影響
もちろん、野生生物への影響に対する研究も進んでいます。
環境ホルモンは、世界中の野生生物の生殖機能に悪影響を及ぼしています。
両生類、哺乳類、鳥類、爬虫類、淡水魚、海水魚、無脊椎動物の種が絶滅したり、個体数が減少しています。
環境ホルモンがどのような役割を担っているのかを解明することはできていませんが、DDTやトリブチル錫などの化学物質へのばく露が減少した地域で、鳥類や軟体動物の個体数が増加したことなどから、環境ホルモンが絶滅や個体数の減少と関係していることは明らかと言えるそうです。