(3)多くの化学物質に環境ホルモンが含まれていること
2002年報告書の時点で分かっていたよりも、ずっと多くの化学物質に環境ホルモン作用があることが認められています。
2002年時点でも残留性有機汚染物質(POPs)に環境ホルモン作用があることが分かっていましたが、それ以外に、農薬や植物エストロゲン、金属、医薬品、食品・パーソナルケア製品・化粧品・プラスチック・繊維製品・建材などの添加材や不純物等々、様々な種類の物質の中に環境ホルモンが含まれていることが分かりました。
野生生物は、主に空気や水、土壌などを通じて環境ホルモンにばく露しますが、人間は、食物や水、埃、空気中のガスや粒子の吸入、皮膚吸収などにより、環境ホルモンにばく露されています。
野生生物でも人間でも、母体から胎盤を通じて胎児に、あるいは母乳により乳児に移行します。
北極圏も含めて全世界で、野生生物や人間の体内で数百種類の化学物質が検出されています。
市販の化学物質の数百種類に環境ホルモン作用があることが分かりましたが、環境ホルモンの試験を行っているのは、ごく一部にすぎません。
3.過去の教訓から学ぶ
2012年報告書は、次世代の健康を守る対策として、毒性や病原性を持つ化学物質の使用を禁止することを挙げます。
たとえば、クロルピリホスは小児の発達遅滞、注意障害、ADHDなどを惹き起こす強力な神経毒性を持つことが証明されています。アメリカでは、2000年に有機リン系農薬クロルピリホスを住居で使用することを禁じたところ、ニューヨーク州での小児の血中濃度は1年で顕著に低下し、2年で半分以
下となったそうです。 現在では住居で使用するクロルピリホスの製品の製造は世界的に中止されていますが、野菜や果物の殺虫剤としては使われています。
2012年報告書は、不完全ではあっても注目すべきデータが存在するときには、重大な長期的障害が発生する前に、予防原則を今以上に活用して化学物質の使用を制限ないし禁止し、早期のばく露を低減する措置を取るべきだと述べています。
4.今後に向けて
2012年報告書は、胎児や子どもを環境ホルモンから守るためには、環境ホルモンがいつどのように作用するのかの知識を深めることが必要だと指摘しています。
人間や生物が、一つの環境ホルモンではなく、混合物質にばく露されたときにどうなるのか、ばく露に対する敏感な期があるのかというようなことについての知見が必要です。
また、大量にある化学物質の環境ホルモン作用を調べるために試験法を改良することや、環境ホルモンのばく露源やばく露経路を特定したり、環境ホルモンへのばく露と健康影響の関係を評価するための方法の開発なども求められています。
(広報委員会)