中下 子どもの脳の発達に農薬が悪影響を与える
ということは、日本ではあまり知られていません。
例えば、ベープマットや携帯用の蚊取りなど、子どもの周りは殺虫剤だらけですね。
黒田 医学的に診断される自閉症やADHDは、胎児期の毒性化学物質曝露が原因の一つと考えられ、妊娠予定の女性や妊婦への曝露が危険です。
一方、教育界で問題となっている「学習障害」(学校の勉強についていけない子ども)では、乳児期、幼児期、学童期での殺虫剤曝露も影響します。学習能力は発達し続けていますから。
ことに閉め切った室内での殺虫剤の噴霧は絶対にやめてください。
これからはもう国民会議の出番だと思います。
欧州のような、きちんとした農薬規制に日本の行政を変えねばなりませんが、食品の国際流通の時代、これから外圧も大きくなってくると思います。
中下 日本では、先ほども申し上げたように、「環境ホルモン問題は終わった」ことになったままで、研究も遅れており、当然規制も全く進んでいません。
これから私たちは何をなすべきでしょうか。
規制は縦割りでも、化学物質にばく露するのは、一人ひとりの個人
立川 専門的な議論も大変大事だけれども、そこにとどまっていては現実的なインパクトはあまりありません。
化学物質の問題は実に多様、縦割り、物質の数も多い。規制する役所も法律も様々で多様な世界です。
一つの役所で、一つの法律で対応することはできないので、縦割りはそれなりに合理性があります。
しかし、多様なルート、多様な法律、多様なお役所とありますが、化学物質の影響は、一人の人間がまるごと全部引き受けてしまいます。
そうすると、その次元で問題をどう考えていくかしかないわけです。
化学物質の問題は、わからないことだらけです。
専門家でも意見がわかれ、科学が答えを出せないのですから、最終的な判断は専門家に任せられません。
個人が、リスクをとって最終的には選択をするしかない。
そうなると普通の人がどうして的確な判断ができるような情報や考え方を提供するということがNPOに求められます。
しかし、膨大なお金と事業をつぎ込んで一方的な情報を流されると、一般の人々は判断が難しくなる。
必要な情報をどう提供するか。
付け焼刃ではなく、教育のレベルからきちんとしなければいけない、科学的な教養と政治的な教養をしっかりと学んでおかなければやはり難しいでしょうね。
簡単ではありません。
それだけのものを背負い込まなければいけない。
影響を一番受けやすいのは胎児だということは間違いありません。
卵から受精して最初の段階は圧倒的に急速な細胞分裂をするわけなので、生まれてからだと遅すぎます。
人間の安全を保障しようと思えば胎児期が重要です。
ところが胎児に自己選択はできないので母親の方にかかるわけです。
そうすると母親がどういう選択をできるか情報提供することが大切です。
生まれてからはまた別のアプローチが必要です。
生活習慣病、文字通りに生活が健康と寿命を左右するというのは間違いなく、医者や医療や薬の話ではなくライフスタイルによるもの、そうするとライフスタイルをどう選択していくかということに役に立つ情報というのを我々が提供していく。
特に、食品や食物から取る化学物質のウェイトが大きいと思います。
中下 まず情報のわかりやすい発信をする必要があるということですね。国民会議としてもいつも心がけているつもりですが、実際にやってみると、「難しすぎる!」とお叱りを受けることもしばしばです。
若い会員を中心に「次世代影響プロジェクトチーム」が設置されていますので、同チームを中心に積極的に取り組んでいきたいと思います。
一方、国民会議の活動の中心は政策提言ですが、新たな法規制という点ではどのように考えるべきでしょうか。
日本では、自主的な取り組みが優先で、なかなか法規制を実施しないのが実情です。
例えば、ビスフェノールAについて、規制はせずに、自主的取り組みということで、哺乳瓶を代替品にいち早く取り替えていました。
立川 企業が自主的に取り組むことは重要です。
しかし、だからといって、法規制をないがしろにすることは適当ではありません。
なぜかというと、輸入品にはビスフェノールAが使われてしまうことになるからです。
たとえばタイの生産現場では、加工食品を輸出するときに、最高級はEUへ、2級品はアメリカやカナダ、それから他のアジア諸国、どの外国にも出せない低級なものを日本に出荷するそうです。
日本国内の規制であっても、日本に輸出をしようとする産業は守らなければいけません。
輸出業者は常に規制に敏感で、最新の規制動向を徹底的にフォローしています。
そういう目で見ると、日本は非常に規制が甘い。
チェックもほとんどしない。だから外国から舐められています。EUには厳しい規制があるから、外国の輸出業者もきちんと選んで良いものを出荷するようになります。
国内の法律を厳格にすることは、輸入食品に対する規制を強化することにもなるのです。
中下 先ほどのお話では環境ホルモン問題の射程はかなり広くなっていることが分かりました。
法規制を考える時には、どのような分野、観点からの規制を目ざすべきでしょうか。
立川 欧州が農薬や化粧品の規制から導入したことは現実的かつ賢明な選択だと思います。
日本では、農薬、食品も大切ですが、医薬品やパーソナルケア製品が当面の具体的なターゲットになるでしょう。
中下 ありがとうございました。
本日のご意見を参考にさせていただき、国民会議でも環境ホルモン問題について、より一層積極的な取り組みを進めたいと思います。
(2014年1月29日 弁護士会館にて対談を行い、広報委員会で構成しました。)