今後の慢性の痛み対策について(提言)-2 | 化学物質過敏症 runのブログ

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1.慢性の痛みに関する現状
○ 痛みは体の異常を知らせる警告反応として重要な役割を果たしている一方で、不快な症状として日常生活に支障を生み、生活の質を落とす要因となっている。

国際疼痛学会の定義(1985年)によれば、「痛みとは組織の実質的あるいは潜在的な障害に結びつくか、このような障害をあらわす言葉をつかって述べられる不快な感覚・情動体験である」とされている。

このように、痛みは主観的な体験の表現であるために、客観的な評価が困難であり、標準的な評価法や診断法は未確立である。

また、国内においては診療体制も十分整っていない現状がある。

○ 「平成19年国民生活基礎調査」によると、受療頻度が高い上位5疾病に腰痛症、肩こり症が含まれており、同調査による頻度の高い自覚症状として、腰痛、肩こり、手足の関節痛、頭痛が上位を独占していることから、国民の多くが痛みを抱えて生活しているといえる(図1、図2)。

○ 痛みは慢性化するに従い、罹患部位の器質的異常や身体機能だけの問題ではなくなり、精神医学的要因、心理学的要因、社会的な要因が複雑に関与して、痛みを増悪させ、遷延させることになる。

そのため、痛み診療においては、診療科の枠組みを超えた総合的かつ集学的な対応が求められる。

また、医師や看護師等の医療従事者は、患者個々の背景に合わせたきめ細かい治療内容、治療目標等を設定する必要がある。

○ 慢性の痛みは患者の生活の質を著しく低下させ、就労困難を招く等、社会的損失が大きいとされる。

また、有効性が乏しいにもかかわらず、旧来の消炎鎮痛薬による治療が実施されていたり、痛みから解放されないために、患者が多くの医療機関を渡り歩いて診療を受けていたりする場合もあること等が指摘されており、適切な痛み対策が求められている。

2.慢性の痛みの医療を取り巻く課題
(1)痛みを対象とした医療体制について
○ 患者の痛みに対して、従来の消炎鎮痛薬や神経ブロックなどの治療、あるいは自身の経験に基づいた方法による治療等で対応している場合もあるとの報告もあり、治療に抵抗性を示す慢性の痛みに対して、必ずしも適切な治療法を選択しているとは言い難い。
○ 慢性の痛み診療においては、個々の疾患分野や医療職種に限定されない総合的なアプローチが求められるが、痛みを専門とする診療体制は十分に整備されていない。

その背景には、痛みを対象とした診療が成り立つような制度や人材育成、教育体制が確立されておらず、痛みを理解し、痛みに苦しめられている者を社会全体で支えようとする意識が、十分に醸成されていないことが挙げられる。
(2)痛みに関する情報の提供について
○ 慢性の痛みに関する原因や診断、治療・対処法等に関して、おびただしい情報が氾濫しているが、科学的根拠に基づいて情報が整理されているとは言い難く、なかには不適切な情報等が含まれている場合がある。

しかし、医師や看護師等の医療従事者や患者、国民が正しい最新情報を容易に入手できるような相談窓口や情報センター等の整備は、十分になされていない。
○ 痛み診療に対する認識には、一般医と痛みの専門医の間、専門医と専門医の間、さらに医療従事者と患者の間において差異がある。

医療従事者の育成においても、これまで疾患ごとの縦断的教育が中心であり、痛みという症状から横断的に評価し対応するための教育は十分になされていない。
○ 痛みの診療において、医療従事者は、患者にとってわかりやすく納得できる説明と情報提供を行い、安心、安全で生活の質にも配慮した医療を実現しなくてはならない。

一方、患者は、医療の不確実性や限界についても理解を深める必要がある。

慢性の痛みの治療においては、医療従事者と患者の信頼関係の構築が不可欠であるが、必ずしも適切な信頼関係が構築されているとは言い難い。
○ 難治性の痛みには、帯状疱疹後神経痛や脊髄の障害による痛み等の神経障害性疼痛、線維筋痛症や複合性局所疼痛症候群のような原因不明の疾患、器質的原因が明らかでない歯科口腔外科領域の痛み等、様々な疾患による痛みが存在する。

それらは、病態が十分に解明されておらず、診断も困難である。

そのために、患者は適切な対応や治療を受けられないだけでなく、病状を周囲の人から理解されないことによる疎外感や精神的苦痛にも苦しんでいることが多い。

(3)臨床現場における問題点について
○ 慢性の痛みに対する薬物療法においては、麻薬性鎮痛剤の使用など、痛みに対する治療の選択肢が広がりつつある一方で、諸外国においては痛みに対する有効性が確立されている薬剤(抗てんかん薬、抗うつ薬などの一部)であっても、国内では慢性の痛みに関する適応がなく、保険適用の対象になっていないために使用できないものが多いとの指摘がある(図4)。

こうした薬剤について、慢性の痛みに適正に使用できるようにする方策も、具体的に検討していく必要がある。
○ 慢性の痛みに対する治療法に関しては、有効性が乏しい従来どおりの鎮痛薬などによる治療が今なお実施されている等の報告が散見される。

また、治療法の選択については、診療施設や診療科、医師により差がみられ、標準化されていないのが実情である。
○ 痛みの自覚においては、精神医学的・心理学的な要因が少なからず関与しており、客観的所見があっても、精神医学的・心理学的要因が大きく影響していたり、客観的所見と主観的症状に乖離が生じていたりする事例に対しては、身体疾患に対する治療だけでなく、精神医学的・心理学的な介入も必要になる。

現状では、精神科や心療内科の医師が、痛み診療に早期に介入することは極めて少なく、精神医学的・心理学的アプローチは広く普及していない。また、患者側も、精神医学的・心理学的な要因が、痛みの成立に影響を及ぼし、慢性化、遷延化を招き得ることについて、認識が乏しいと考えられる。
○ 慢性の痛みに関する病状や検査結果、治療法等の説明は、患者がその説明内容を正しく理解した上で行われ、患者も主体的に医療参加できるような診療体制が整備されていることが望まれる。

しかし、臨床現場においては、そうした適切かつ十分な説明がなされているとは限らず、痛みを慢性化・難治化させている場合がある。

また、そうした適切かつ十分な説明に関しては、診療報酬においても評価されるべきである。