今後の慢性の痛み対策について(提言)-3 | 化学物質過敏症 runのブログ

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3.今後、必要とされる対策
(1)医療体制の構築
○ 痛みに対してまず重要なのは慢性化させないことであり、痛みに対して早期に適切な対応を行うことが重要である。

そのためには、痛み専門医のみならず一般医についても、痛みに対する診療レベルを研修等により向上させる必要がある。

一般医にも利用しやすいガイドラインやフローチャートを作成し、一般医であっても、痛み診療の入口、慢性化する前、慢性化してしまった後のそれぞれの段階で、器質的要因、精神医学的・心理学的要因等について適切に評価し、対応できるような医療体制の構築が望まれる。
○ 一般医で対応困難な痛みについては、関係する診療各科の医師や、看護師や薬剤師等の各職種のスタッフが連携して治療にあたるチーム医療を行うことが求められる。

そのためには、チーム医療の核となる痛み診療部門を整備し、診療だけでなく、情報収集や情報発信、人材育成、講演活動等、慢性の痛みが持つ多様な問題点について、広く社会に啓発する役割も付帯することが望ましい。
○ 痛み診療体制の構築には、医療従事者の役割分担や連携について明確化するとともに、関係団体や関係学会等との連携の下で、痛み診療に精通した人材の育成等が必要であり、さらに経済的に痛み診療が成り立つ診療報酬の整備等、現状に即した対応が求められる。がんの緩和医療チームは、このモデルになり得ると思われる。
○ 慢性の痛みに関する病状や検査結果、治療法等の説明は、患者がその説明内容を正しく理解した上で行われ、患者も主体的に医療参加できるような診療体制を整備していく必要がある。

(2)教育、普及・啓発
○ 医師、看護師等の医療従事者の育成において、慢性の痛みに関する診断法や対処法等を、初期教育や卒前・卒後教育において実施することが必要である。

これらを教育プログラム等に反映させるような取組が望まれる。
○ 慢性の痛みに苦しむ患者においては、自身の痛みを受容することにより症状の軽快が得られることがしばしば経験されており、痛みの消失を目的(=ゴール)とするのではなく、患者が痛みと向き合い、受容することも重要である。
○ 一般の国民においては、慢性の痛みを患者や家族、医療関係者だけの問題として捉えるのではなく、社会全体で痛みに関心を持ち、理解することが重要である。

痛みと共存した状態であっても、患者がよりよい社会生活を送れるよう、国民はそれぞれの立場で支援していく必要がある。

そのために、行政は、関係団体や関係学会等と連携し、積極的かつ重点的に国民運動やキャンペーン等の普及啓発活動を推進しなければならない。

(3)情報提供、相談体制
○ 痛みに関する情報については、科学的根拠に基づいて整理する必要があり、最新の知見も踏まえた情報の収集及び発信がなされるべきである。医療関係者だけでなく、患者、家族の視点も意識して、わかりやすい情報提供を行う必要がある。
○ 痛み診療に対する認識については、一般医と痛みの専門医の間、専門医と専門医の間、さらに医療従事者と患者の間にある差異を埋めていく努力が必要である。

痛みに関する共通した認識を確立し、今後の痛み診療に対する新しい知識や技術の普及を図るため、医療従事者や患者、国民が正しい最新情報にアクセスできるよう、慢性の痛みに関する相談窓口や情報センター等の設置が望まれる。
○ 慢性の痛みの治療においては、医療従事者と患者の信頼関係を構築するため、行政は、患者会やNPOとの連携を通じて情報を共有し、相談体制の整備に努めるとともに、社会全体で痛みに向き合う土壌が形成されるよう働きかけていく必要がある。

(4)調査・研究
○ 慢性の痛みには、様々な疾患による痛みが存在し、病態が十分に解明されておらず、診断が困難である場合があるため、患者は適切な対応や治療を受けられないだけでなく、病状を周囲の人から理解されないことによる疎外感や精神的苦痛にも苦しんでいることが多い。

このような問題を解決するためにも、難治性の痛みについて研究を推進し、対策を確立することが求められている。
○ まず、慢性の痛みに関する現状把握に着手すべきである。

痛みの頻度、その種類や現行の対応と対応施設、その有効性、安全性等について調査研究し、今後の施策につながる基礎資料の作成を行う必要がある。
○ 痛みの実態調査と同時に、痛みの評価法に関する研究を推進し、医療者及び患者自身によって、痛みを多次元的・多因子的にとらえ、チーム医療を行う上で有用となる手法を開発することが求められる。
○ また、医療機関や学会等が主体となり、科学的根拠を集積し、それに基づき奨励される治療法の基準を策定していく必要がある。

疫学調査や痛みの評価法の確立のみならず、難治性の痛みの病態解明・診断方法の開発、新規治療薬や安全で効果的な治療法の開発、治療ガイドライン、診断と治療のフローチャートの策定、教育資材の開発等、現状の課題克服に向けて研究の推進は不可欠である。

4.まとめ
○ 慢性の痛みは、原因疾患のみならず、生活環境、行動様式、個人の性格等を反映して多彩な表現をとるために、個々の症例に応じてきめ細やかな対応が求められる。

痛みを完全に取り除くことは困難であっても、痛みの適切な管理と理解を行うことによって、痛みを軽減し生活の質を向上させることは可能である。
○ 多くの国民が慢性の痛みに悩んでいる現状を打開するためには、痛みの緩和、痛みと関連して損なわれる生活の質や精神的負担の改善を目標に、医療や社会、医療を取り巻く人々や国民自身が、それぞれの立場で計画的かつ協力的に痛み対策に取り組むことが重要である。
○ 本検討会の議論を踏まえて、早急に慢性の痛みに関する医療体制整備や医療資源の適正配分、また、痛みによる社会的損失の軽減に寄与するような取組が開始されるよう、厚生労働省、文部科学省、全国医学部長・病院長会議などに提案したい。

(参考)
「慢性の痛みに関する検討会」 構成員名簿
(50音順・敬称略/○:座長)
氏名
所属
安達あだち 知子ともこ
愛育病院産婦人科部長
牛田うしだ 享たか宏ひろ
愛知医科大学学際的痛みセンター教授
内田うちだ 健夫たけお
今村いまむら 聡さとし
日本医師会常任理事(平成21年度)
(平成22年度)
内山うちやま 靖やすし
名古屋大学医学部保健学科教授
片山かたやま 容一よういち
日本大学医学部脳神経外科教授
○葛原くずはら 茂樹
鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療福祉学科特任教授
しげき
真田さなだ 弘美ひろみ
東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻教授
柴田しばた 政彦まさひこ
大阪大学大学院医学系研究科疼痛医学寄附講座教授
竹内たけうち 勤つとむ
慶應義塾大学医学部リウマチ内科教授
辻本つじもと 好子よしこ
NPOささえあい医療人権センターCOML理事長
戸山とやま 芳よし昭あき
慶應義塾大学医学部整形外科教授
宮岡みやおか 等ひとし
北里大学医学部精神科教授
(第1回検討会・オブザーバー)
井関いせき 雅子まさこ
順天堂大学医学部附属順天堂医院緩和ケアセンター室長