・出典:食品・薬品安全性研究ニュース
http://www.jpha.or.jp/jpha/jphanews/anzensei.html
・大気汚染粒子による酸化ストレス
Personal PM2.5 exposure and markers of oxidative stress in blood
疫学的調査の結果から, 大気汚染粒子状物質がヒトにおいて心肺疾患が原因の疾病や死のリスクを増すことが明らかとなり, その機構として酸化的ストレスの関与が提唱されている.
喫煙者の動脈硬化がビタミンCやEの摂取により軽減することから, 酸化的ストレスは動脈硬化にも関与しているものと考えられている.
粒子状物質への長期曝露は低密度リポ蛋白 (LDL) の酸化を介して動脈硬化症のリスクを増加する.
他の説としては短時間の粒子の吸入により起きる肺の炎症による血液の粘性の増加, または直接的な作用である血小板および赤血球数の増加の関与が考えられている.
広範な疫学的検討から, LDL, コレステロールおよび血圧等と同様に, 血液粘性も心血管系疾患の有用な予測マーカーであることが明らかになっている.
一方, 疫学的研究においては戸外の汚染粒子濃度と健康との関係が取りざたされているが, 実際には大抵の人が多くの時間を室内で過ごしており, 汚染粒子への曝露は室内で起こっている.
粒子状物質が生体におよぼす影響を明らかにするため, 著者らはコペンハーゲン中央部で居住し, 学校に通う50人の学生を対象に, 季節毎に1年間に4回, 直径 2.5 _m 以下の汚染粒子 (particulate matter ? 2.5 _m; PM2.5) および炭素粒子 (carbon black; CB) への個体曝露の測定を2日間行い, その後, 血液サンプリングを行って, 血清蛋白, ヘモグロビンのγ-グルタミルセミアルデヒドや 2-アミノアジピンセミアルデヒド等の蛋白の酸化, 過酸化脂質, 赤血球数, 血小板数, ヘモグロビン濃度およびフィブリノーゲン濃度の測定を行った.
PM2.5 への曝露濃度の中央値は個体では 16.1 mg/m3, 環境中では 9.2 _g/m3, さらに CB への個体曝露濃度は 8.1×10-6/m であった.
環境中 PM2.5 濃度と個体 PM2.5 濃度の間には正の相関が認められ (p = 0.03), 環境中 PM2.5 濃度が 10 _g/m3 上昇すると個体 PM2.5 濃度が12%上昇した.
さらに, CB と個体 PM2.5 濃度の間にも正の相関が認められ (p < 0.0001), CB 曝露レベルが 1×10-5/m 上昇すると30%の個体 PM2.5 濃度の上昇が認められた.
血漿蛋白量の酸化については CB 個体曝露濃度との間に明らかな正の相関が認められたが, PM2.5 との間では相関は統計学的に有意ではなかった (p = 0.061).
女性被験者では個体 PM2.5 レベルが 10 _g/m3 上昇すると血漿中マロンアルデヒドが3.7%上昇した (p < 0.05) が, 男性ではこのような関係は認められなかった.
同様に赤血球数およびヘモグロビン濃度についても, 女性では個体 PM2.5 レベルと特異的に相関した上昇が認められた (p < 0.01). 環境中の PM2.5 レベルと全ての血液, 血漿マーカーとの間に相関は認められなかった.
これらの結果は高濃度ではない粒子への曝露により末梢赤血球数の増加および酸化的ストレスが起こることを示し, また, 環境中濃度と比較して個体曝露濃度の方が, より心血管系疾患に関連した生体マーカーの変化に相関することが明らかとなった.
さらに, 酸化的ストレスは動脈硬化を, 赤血球数の増加は血液粘性の増加を引き起こし, これらの変化が相まって心血管系疾患に関与するものと考えられる.
Sソrensen M1, Daneshvar B2, Hansen M2, Dragsted LO2, Hertel O3, Knudsen L1, Loft S1
(1 Copenhagen 大学 保健学研究所, 2 食品安全栄養学研究所, Soborg, 3 国立環境研究所, Roskilde, Denmark)