セイヨウオオマルハナバチはヨーロッパ原産のハナバチの1種で、温室内で栽培されているトマト等の花粉媒介昆虫としてオランダやベルギーで人工の巣箱が大量に生産されています。
この巣箱を温室においておけば、働きバチが花粉を集めに、温室内のトマトの花を訪れ、花から花に花粉を運んで授粉を助けてくれます。
これによって、トマト農家さん達は、効率よくトマトの実を生産することができるのです。
日本には1992年から本格導入されました。
それまで我が国のトマト生産現場では植物成長調節剤(ホルモン剤)を一つ一つの花に噴射するという手作業によって結実させていました。
この作業は大変手間がかかるとともに、ホルモン剤自体が除草剤を成分としていること、また、種無しのトマトしかできないため味が悪いという生産上のデメリットを生んでいました。
それがこの外来のマルハナバチの導入によって、トマト農家さん達の省力化が進み、生産規模が拡大できたとともに、安全で高品質なトマトの生産ができるようになったのです。
導入直後からセイヨウオオマルハナバチの需要は急成長し、年間の流通量は、4,000巣箱から現在70,000巣箱にまで増加しました。
しかし、ここで生態学的問題が生じました。本種は外来生物であり、野生化した場合に、日本在来のマルハナバチ種に対して悪影響を及ぼす恐れがあったのです。
その恐れは的中し、導入してからわずか数年後には北海道で野生化した巣が発見され、その後、野生個体群は北海道内の各地で分布を拡大し、在来マルハナバチと巣穴を巡る競争が生じたり、外来マルハナバチと在来マルハナバチの間で交雑が起こり、在来種の生殖を阻害したりするなどの生態影響が起こっていることが2005年までに我々の研究によって明らかになりました。
本来ならば、在来種に甚大な被害を及ぼしているセイヨウオオマルハナバチは、すぐにでも特定外来生物に指定して使用規制しなければなりませんでした。
しかし、本種は農業利用のために導入され、今やトマト生産に欠かせない農業資材だったため、簡単に規制に踏み切ることはできませんでした。
そこで国立環境研究所の提案により、逃亡しないように網を張った温室のみで、環境大臣の許可のもと使用できるという制限をつけて2006年に特定外来生物に指定することになりました。
この法規制によりセイヨウオオマルハナバチの野外への逃亡が遮断され、供給源を失った野外の集団もこれ以上は増加しないであろうと予測されました(図2)。