先の小学生の時からにおいに敏感だったというお子さんは2 人とも、中学進学後には、同級生が部活の朝練習の後に使用する制汗剤や全身ローションの香りに頭痛がする、頭痛や気分が悪くなる日が増えたと訴えています15)。
ある青年は、中学2 年生の時にクラスの女子生徒が香水を落とした際に揮散した香水の匂いを吸ってしまい昏倒、15 分間くらい昏睡状態が続き、頭痛が酷かったことを覚えていると振り返っています15)。
また、ある高校生は、暑くなりクーラー使用のため窓が閉め切られるようになると、頭痛、倦怠感、リンパ腺の腫れなどの症状が顕著になり、教室にいられる時間が少なくなって、大学進学を考えて勉強したいと進んだ高校で、授業が思うように受けられなくなってしまいました15)。
別の十代の青年は、小学4 年で化学物質過敏症と診断を受けて以来、登校をあきらめ、自宅での自学自習を続けています。
自宅近くの小学校で毎年夏に行われる行事の参加者の香料入り製品で体調不良になり、強い眠気、倦怠感、食欲不振、鼻血、自律神経失調症、平衡感覚異常等に一週間くらい悩まされるそうです15)。
香料が原因で教育を受ける権利を奪われてしまうような、理不尽な状況を改善していただく手立てをとっていただくことはできないのでしょうか。
学校側の対応が事態を深刻化させる場合もあります。
ある市民団体の調べでは、香料など化学物質による健康被害を訴えても、教師や友達から理解されず、訴えたことが虐めの原因となって更なる被害に苦しむことになった例や、声を挙げることすら出来ないような例、公立学校の無理解に疲れ果て、第2子は理解のある県外私学に進学させた例、教室に充満する香料臭が耐え難く保健室登校していたところ、担任教師の暴言で登校拒否から退学に至った事例もあったとのことです16)。
また、新聞報道によると、岐阜県の化学物質過敏症に関する2010 年の調査では、原因となる物質として、芳香剤・消臭剤や香水・制汗剤・整髪料をあげる児童生徒が多く、主な症状として頭痛や皮膚のかゆみ、のどの痛みやめまい等の症状が出ると訴えています8)。
岩手県の2010 年の小学校の工事では22 人の児童がシックスクール症候群を発症し、重症化した子どもたちは今も不自由な学校生活を続けています。
ある生徒は、頭痛や疲労感、息苦しさで一日の最後の授業まで受けることが難しく、中学校では、制汗剤に暴露して強い頭痛や吐き気に苦しむ、冬期になって暖房が稼働されると洗剤や柔軟剤の化学物質が揮発するようになって登校できなくなるなど、3 年が経過してもなお症状に苦しめられています8)。
いつ、何が、発症や重症化の引き金になるかわからず、取り返しのつかない事態になることもあります。
柔軟剤の香りがきっかけで、光に過敏になり暗い部屋に閉じこもることになった人がいます8)。
教師の整髪料や生徒の制汗剤、机にかけられた香水、来校した卒業生の香水など、香料や香水に繰り返し暴露し、寝たきりになるほど重症化してしまった生徒もいます。
重症化するまでに、それまでなかった喘息症状の出現など悪化の経過をたどっていますが、学校は、なぜもっと早く適切な対応で、生徒を保護することができなかったのでしょうか8, 17)。
化学物質過敏症の患者の80%以上が症状を誘発するものとして香料をあげていますが、発症や重症化の原因ともなりうるものです。
化学物質過敏症は、重症化すると外出が困難になり、日常生活にも困るだけでなく、教育の機会を奪われ、就職や将来の仕事の夢や可能性も狭められてしまう、本当に深刻な病気です8)。
大学の下見をしてとても通うことができないと進学をあきらめ、息が苦しくならず症状が出ることなく働ける就職先を探しても難しく、自分の力で道を切り開いていこうとしている人もいますが、大変険しい道のりです8)。
シックスクールで化学物質過敏症を発症した学校職員や教員もいますが、大人になってから職場で発症した人にとっても、再就職や職場の理解を得ての復帰は困難を極めます8,15)。
文科省の健康調査でも喘息やアレルギーの児童生徒が増えています。
特に子どもは化学物質への感受性が高いとされており18)、シックハウス症候群や喘息、アレルギーのお子さんなど化学物質過敏症を発症するリスクの高いお子さんも相当数いると思われますが、学校での香料暴露が発症や重症化の最後の引き金にならないとも限りません。
また、大人であっても、現在、喘息やアレルギー、慢性病に罹患している人など、化学物質の影響を受けやすい人々はたくさんいて、香料によって発症するリスクを抱えています8,15)。
香料には安全性に関する問題もあります。
香料にはアレルゲンとなる物質が多く皮膚炎や喘息を誘発し、また偏頭痛を誘発するほか、神経毒性や内分泌かく乱作用、変異原性、発がん性、発がん促進作用や異物排出能力阻害作用などを有するものがあり10,11)、香料あるいは香料を含む製品のすべての安全性が担保されているわけではないのに、多くの人はそのような認識を持っていません。
香料は、人間の鼻腔の深部まで送り込まれ、匂いとして感じられることによって効果を発揮する、すなわち被曝することを前提として作られている複合化学物質で10,11,19)、10種から数百種もの物質を混合し溶剤を添加して処方されていますが、製品での表示は「香料」と一括表示が認められ成分を明らかにしなくてもよいことになっており、安全性は、業界の自主基準である国際香粧品香料協会(IFRA)の「IFRAスタンダード」を遵守することで担保されると考えられているだけです10,20)。
また、化粧品などの安全性保証は、企業の自己責任に基づいて行うことにしかなっておらず、薬事法の「化粧品基準」(平成12年9月29日厚生省告示第331号)にも「香料」に対する明確な規制はありません21)。
EU の化粧品に関する規制「EU 化粧品指令:76/768/EEC」(※2013 年7 月11 日以後は「EU 化粧品規則(EC) No.1223/2009」22)に移行、各国に法制化を求めていたものがEU 共通の直接規制となる)では、香料に関して26 種の物質をアレルギー物質として、製品ラベルへの表示を義務化しています21,23)。
これは、欧州委員会の科学委員会の1 つSCCNFP(現SCCS、消費者安全科学委員会)の1999 年の意見書を受けて2003 年の改定で盛り込まれたもので、同委員会は、その後も調査を継続し、昨年、アレルゲンとして確定された82 種類と動物実験で確認された19 種類、アレルゲンの可能性の高い26 種類の計127 種類の物質について、製品ラベルに表示すべきであるとの意見書を提出しました24,25)。
その中で特に注意が必要な12 種類の物質26)は化粧品等の製品への配合率を0.01%以下とすること、その中の1 種類の化学物質とこれまでに確定された2 種類の天然香料とその主たる香気成分について配合禁止とすることを提言しています。
また、その他のアレルゲンの可能性がある物質48 種類もリストアップして、今後接触アレルゲンかどうか判断するためにさらなるデータが必要であるとしています25)。