・出展:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
http://kokumin-kaigi.org/
・英国の「住宅の健康と安全性評価システム」
制度設計者のオーマンディ博士に聞く
家のなかは、一番くつろげる空間である。
一方で、健康上、安全上の観点からは、潜在的なリスクもある。殺虫剤やカビど生理上、悪影響を及ぼすもの、隣人の騒音や日当たりの良し悪しなど精神面に影響するもの、ゴミ、ダニなど感染症の原因になるもの、階段やふろ場の出入り口など段差に起因する転倒事故などが代表的なものである。
そうした危害のリスクを計測し、改修費用と医療費の費用対効果を、地域全体で計測出来る仕組み「住宅の健康と安全性評価システム」が英国にはある。
その仕組みづくりに係ってきたデイビッド・オーマンディ氏(英ワーウィック大教授、環境医学、WHOの「住宅と健康」アドバイザー)氏から、制度の全体像を聞いた。
居住者の健康と安全を守る評価システム
英国のイングランドとウェールズの2つの地域で、2006年4月から法制化されている「住宅の健康と安全性評価システム」は、居住者の健康と安全を守るため、個別住宅の現状を危害リスクの観点から評価する手法です。
住宅と周辺空間は、居住者と訪問者に安全で健康的な環境を提供すべきであるという考え方が背景にあります。
この評価システムは、家屋の状態に起因する健康と安全への危険性とその深刻さの度合いにグレードをつけます。
危険性は、「生理的影響」「精神的影響」「感染症の恐れ」「物理的事故の防止」の4つのカテゴリーに分類します。
発生確率と重大性を評価
自治体の専門的検査官が実際に住宅を訪問し、発生確率と発生した場合の結果の重大性を評価します。
前者は、向こう12カ月の間に、それぞれの危険性に関して「脆弱な集団」に起きる可能性、という観点から「確率何分の1」という形で表現します。
脆弱な集団とは、たとえば、冬季に室内が低温度の住宅は、特に高齢者にとって危険です。
また、急勾配の階段は、特に幼児や高齢者にとって危険性が高まります。後者は、危険度の重大性を「クラス1=致死性」から「クラス4=軽度」まで4分類します。
クラス4でも、医療行為が必要となる危害です。
自治体が、家主に改善策の実施を命令
発生確率と深刻さの両方を勘案し、家屋の健康と安全リスクを評価します。評価をもとに自治体は、家主に改善策の実施を命じたり、改修費用の補助を行うことができます。
もともとイングランドでは、1967年から「住宅状態調査」を実施してきました。これは無作為抽出で、家屋の内外の状態を調べます。
2006年からは世帯構成も調べています。
これに、「犯罪統計」「死因データ」「来院原因調査」「火災統計」、民間の保険会社や不動産業界の住宅調査などを組み合わせ、住宅の不具合と、それに起因する健康・安全危害との関係をエビデンス・ベースで整理しました。
この結果、地区ごとの特色やリスクの程度も統計的に把握することができるようになりました。
特にリスクの高い地区では、全数調査も行います。
大雑把な傾向としては、改修費用の4倍から5倍の医療費の削減効果があると見積もられています。