3.PBDEsの環境中の濃度
旧厚生省が 1997 年時点でとりまとめている環境保健クライテリア 162 を見ると、PBDEs の環境中濃度は次のようにまとめられている。
「DeBDE は大気中および製造工場の近くで 25 μg/m までの濃度において検出されている。
日本にお 3いて 1977 ~ 91 年の期間に採取された水のサンプル中に、DeBDE は検出されなかった。
しかし、日本で同期間中に採取された河川および河口堆積物中では、約 12mg/kg 乾燥重量までの濃度で検出された。(中略)
日本で採取された魚類のサンプルでは DeBDEは検出されなかったが、ムラサキガイのサンプルでは、検出限界レベルの濃度が見出された。
DeBDE は、日本で採取されたヒトの脂肪組織サンプル中には認められなかったが、米国では5点のヒトの脂肪組織サンプル中の3点で DeBDE が検出された。
DeBDE のヒトへの暴露は、ポリマー類の製造および製剤の過程でおこり得る。
一般集団への DeBDEの暴露は少ない。」
しかし、その後分析技術の進歩に伴い、多くの研究や測定が行われるようになり、次第に環境中の濃度も明らかになってている。
ダイオキシン類の濃度は法制度の整備に伴って次第に改善しているが、それに対して、PBDE などの未規制物質については指数的に濃度が増加しているとの報告もある。
2000 年8月にカリフォルニア州で開催された国際ダイオキシン会議では、九州大医療技術短期大学部の長山淳哉助教授らの調査で日本人の血液や母乳にも PBDE が高濃度に蓄積されていることが報告された。
長山助教授らは、九州地方に住む成人男女 24 人の血液について、PBDE を含む四種類の計五種類の臭素系難燃剤の濃度を測定した。
その結果 24 人すべてのサンブルからいずれかの臭素系難燃剤が検出され、PBDE については、脂肪 1g 当たり 4,946pg/g、最高値 18,000pg/g が検出されたことを発表している。
国内の母乳中から、PBDE 濃度はそれまで、最高で 1脂肪重量当たり 1,480pg/g とのデータが報告されていたが、これに比べてかなり高く、難燃剤の汚染が国内でも広がっていることが示唆された。(資料:Dioxin 2000 in California)
スウェーデンでの母乳の調査で PBDE の濃度が5年間で二倍になるなど、臭素系難燃剤の汚染が急速に進んでいることが分かり、人体への影響が懸念されるようになっている。
また、2002 年7月 14 日付け朝日新聞には次のような記事が掲載され、PBDEs の環境リスク、健康リスクに対する危惧が大きくクローズアップされることになった。
「PBDE は、ダイオキシンと類似構造を持っているが、これまで 200 種類もある構造を分けて分析することが困難であった。
やっと精密分析が可能になって、1970 年に採取、凍結保存されていた人体の脂肪組織 10 検体と、2000 年に採取した同数の検体を分析した。
1970 年の脂肪 1g 中に検出されたのは、29pg/g だったが、2000 年採取の脂肪中には、約 44 倍の1,288pg/gと高濃度が検出された。
PBDE の一部は、プラスチックや建材、繊維などの難燃剤に使用され、焼却や埋立てなどにより環境中に広がり、人体に取り込まれたと見られている。
EUは、臭素原子が5つ含まれている種類について、体内に蓄積しやすいことから、5年後をめどに使用を禁止する方向である。
業界団体「日本難燃剤協会」によれば、国内需要量は、1990 年に 12,000トンの最高値を記録し、以後、2000 年までに 68,000 トンが使われた。
毒性は、カナダなどで環境ホルモン作用を指摘する研究がある一方で、否定する見解もある。WHOは、焼却などで通常の塩素系ダイオキシンに匹敵する毒性を持つ「臭素化ダイオキシン」が発生する危険性を指摘している。