・http://eforum.jp/eriresearch/eforum2005-ikeda-pbde.pdf
「新たなPCB」といわれるPBDE汚染についての現状と課題
池田こみち(環境総合研究所)
1.はじめに-PBDEとは
PBDEsとは、Polybrominated dephenyl Ether(ポリ臭素化ジフェニルエーテル)を指し、臭素系難燃剤の中で最も一般的に使用されている物質である。
これらは、可燃性物質であるプラスチック、ゴム、木材、繊維等を燃えにくくするために用いられる物質で、火災予防や人命保護のためにこれまで大量に使用されてきたが、その影響については十分把握されてこなかった。
中でも PBDEs は、ポリマー性プラスチック類を主原料とする製品類に多く用いられ、泡製品(消火剤等)、織物製品、電気製品に大量に使用されてきた。
PBDEs には多くの異性体が存在し、DecaPBDE(10 臭素化 PBDE)が最も多く、次いでPentaPBDE(5臭素化)、OctaPBDE(8臭素化)化合物の順となっている。
このうちペンタ-BDE についてはメーカーの自主規制により、現在日本では使用されてない 1)、とされている。
図1 ポリ臭素化ジフェニルエーテルの構造
2.PBDEの毒性
PBDEs の環境中の挙動特性は、塩化及び臭素化ナフタレン及びビフェニール類と類似ししていることから、その生物濃縮性や毒性が問題となっている。
そのため、「新たな PCB」とも呼ばれている。PBDEsは、ダイオキシン類、PCB といった残留性有機汚染物質(POP's)の一種であり、油や脂質によく溶けるため、環境中での残留性や生物濃縮性・蓄積性を持つ化学物質である。
また、粘着性が高く 土壌、底質、大気中の粒子状物質等に吸着しやすい性質をもっており、主な主な健康影響としては、肝臓や甲状腺への毒性、神経発達毒性を有しているとされている。
焼却された場合には、臭素系ダイオキシン類を生成させることからプラスチックや織物類廃棄物の処理についても課題となっている。
一般に、ペンタ、オクタ、デカの3種類の工業原体はいずれも急性毒性・慢性毒性が低く、変異原性や発がん性も極めて弱いとされているが、低濃度の暴露が長期間続いた場合のヒトへの健康影響についてはまだ十分解明されていない。
一方、生物蓄積性は PBDEs の種類によって異なっており、デカ-およびオクタ-BDE がほとんど生物に蓄積しないのに対して、ペンタ-BDE はポリ塩化ビフェニル(PCBs)に匹敵する高い蓄積性を示すとされている。
ラットを用いた動物実験では、ペンタ-BDE とオクタ-BDE には血中の甲状腺ホルモン濃度を低下させる作用があることが報告されている。
甲状腺ホルモンは神経発育に重要なホルモンであり、胎児・新生児期におけるこれらの欠乏は深刻な健康影響を及ぼすことがある。
新生仔マウスにペンタ-BDE の主成分を大量投与した実験で、回復不能な脳神経機能の障害(学習障害・動異常)が報告されており、ヒトの場合でも胎児や新生児期における PBDEs の大量暴露によって同様の障害が引き起こされることが) 懸念されている。1