トリレンジイソシアネートの毒性等について。16 | 化学物質過敏症 runのブログ

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c. 呼吸器感作性
TDI 喘息患者の診断、治療に関する研究報告を以下に記す。
TDI を用いた工場 (ポリウレタンフォーム製造工場か不明) に隣接した事務所で働いていた事務系労働者52 人の健康診断で、4 人 (男性3 人、女性1 人) が喘息に罹患していると診断された。

事務所の空気吸入口はTDI 工場の排気口から23 フィート (約7 メートル) 離れた距離にあり、吸入口の空気フィルターからTDI が検出された。

そこで、患者4 人の呼吸機能に対するTDI の影響を調べる検査が行われた。

検査では、ポリウレタンのワニス単独とTDI との混合物を塗装した小部屋に患者が入り、揮発した蒸気に全身暴露させた後、FEV1 を測定した。

ポリウレタンワニスだけではFEV1 に影響はなかったが、TDI とワニスとの混合物に15~60 分間暴露されると、3 人の患者がFEV1 の3~16 時間に及ぶ持続的な低下傾向を示し、TDI に感受性をもつことを示した。

その時のTDI 暴露濃度は0.001 ppm 以下であると推定された。

これらの結果から、TDI 喘息患者は、一般的に、TDI に高い感受性をもち、0.001 ppm (0.0072 mg/m3) 以下のTDI 濃度に反応して、長時間に及ぶ遅延性の重度の喘息反応を示すと、著者らは考察している(Carroll et al., 1976)。

この報告はTDI 喘息患者のTDI 感受性を検討した報告であるが、TDI の空気中濃度測定方法についての記載及び参考文献の引用もないので、記載している濃度値の妥当性には疑問がある。
1974~1988 年の間にTDI 製造、TDI ポリウレタンフォーム製造、冷蔵庫のポリウレタンフォーム加工作業に従事した労働者で、別々の医療機関においてイソシアナート類の暴露による喘息患者と診断された63 人について、吸入惹起試験による再検査が行われた。

TDI 以外のイソシアナート類で検査された4 人を除いた59 人についてTDI (2,4-TDI:2,6-TDI, 80:20) 蒸気で満たされた小部屋の中で、被験者を吸入暴露させた。0.02 ppm のTDI に15 分間から5 時間暴露した結果、27 人が喘息症状の発現と肺機能検査でFEV1 の20%以上の低下を生ずるなどのTDI 陽性反応を示した。

一方、32 人がTDI に反応せず、陰性を示した。

TDI に陽性あるいは陰性反応を示した被験者の年齢構成、就業中暴露期間、発病までの暴露期間、現在の呼吸器疾患症状 (咳、喘鳴、痰、喘息、鼻炎など) に有意差はなかった。

また、現及び元喫煙のTDI 陽性者と陰性者の間には平常の肺機能に差はなかったが、非喫煙の陽性反応者に肺機能低下が認められた。

さらに2,4-TDI、2,6-TDI 単体を用いた試験で、FEV1 を指標としたTDI 暴露による肺機能低下はTDIの種類によって異なり、2,4-TDI、2,6-TDI あるいは両方に反応した。

この違いは、作業現場で暴露したTDI の組成によっているだろうと考察されている (Banks et al., 1989)。
1980~1985 年の間に、TDI 喘息と診断された患者60 人を5 年後に再診し、症状の経過が追跡調査された。

当時、53 人がポリウレタン塗装に、3 人がポリウレタンワニス製造、3 人がポリウレタンフォーム製造、1 人がポリウレタン樹脂で被覆された電線のハンダづけ作業に従事していた。

その後、17 人の患者は転職せずに元の職場にいたが、43 人はTDI 暴露を避けて転職していた。喫煙習慣を変えた人はいなかった。

最初の診断時の検査結果と比較して、勤務を継続し、TDI 暴露を受けていた患者は、FVC、FEV1、メタコリンによるFEV1 の15%低下 (PD15) 反応などの有意な減少と喘息症状の有意な悪化、治療の必要性を示した。

一方、暴露を避けて転職した患者は、喘息症状の軽減、メタコリンによるPD15 値3 倍増の気管支反応性の回復を示した。
43 人中、12 人は喘息が全快、10 人は症状が軽減、16 人は症状が安定、5 人は悪化していた。
これらの結果から、TDI 喘息から回復するには、早期の診断と速やかに暴露を避けることが肝要であると、著者らは結論している (Pisati et al., 1993)。
TDI の暴露で喘息を患った労働者63 人を対象に、TDI 感作性の診断のために適切な検査項目を探る研究が行われた。

対象者はTDI の流出など突発的に暴露されたことはなかったが、仕事中及び後も息切れ、喘鳴、空咳、胸の締め付けの症状を示した。

TDI の吸入暴露による惹起前後に、FEV1、FVC 測定、メタコリンに対する気道反応検査、アトピー検査及び血清中のTDI特異IgE 抗体、TDI 特異IgG 抗体と総IgE 抗体検出が行われた。

メタコリン投与量はFEV1 を20%以上減少する用量とされた。

対象者にTDI 0.005~0.01 ppm (0.036~0.072 mg/m3) を30 分間吸入暴露させて、惹起した直後、FEV1 を測定したところ、34 人 (54%) が気道過敏反応を示す
FEV1 値の低下を生じ、TDI に陽性反応を示した。

そのうちの12 人が惹起後1 時間以内の早期に反応し、13 人が1 時間以後に遅延反応し、9 人が早期と遅延の両方に反応を示した。

陽性反応者の23 人がメタコリン反応を示した。

血清中の総IgE 抗体価はTDI に早期反応及び早期と遅延と両方に反応した人の方がTDI 陰性の人あるいは遅延反応した人より高かった。

しかし、血清中のTDI 特異IgE 抗体及びTDI 特異IgG 抗体が各々2 人の患者から検出されたが、TDI 惹起反応やアトピー陽性とは関連がなかった。

これらの結果、TDI 感作性の診断には、メタコリン反応検査が有効であることを示している (Karol et al., 1994)。