日本の 7 か所のポリウレタンフォーム製造工場の労働者の肺機能とTDI 暴露との関係が1981~1985 年の4 年間にわたり追跡調査され、1981 年の横断研究と4 年間の追跡研究の結果が報告された (Omae et al., 1992a,b)。
横断研究では、製造労働者90 人と対照群として同じ工場のTDI非暴露者44 人が対象とされた。
平均年齢は製造労働者では33.8 歳、対照労働者では36.6 歳であったが、身長、喫煙習慣では差はなかった。
製造労働者の平均雇用期間は13.3 年であった。
いくつかの工場の従業員は、TDI 以外の化学物質にも暴露された。
個人モニターを用いて作業中暴露濃度が測定され、合計129 標本からTWA は0.0032 ppm と算出された。
0.02 ppm 以上の短時間暴露が検出された標本例が16 あった。肺機能としてFVC、FEV1、MMF (最大呼気中間流量)、PEF (瞬間最大呼気流量) などを測定した。
製造労働者の各指数値は、PEF の低値を除いて対照群と有意差はなかった。
また、胸部X 線検査で両群に差はなかった。
一方、冬季の痰、鼻詰まり、鼻出血と就業中あるいは就業後の眼及び喉頭粘膜の刺激症状の発症率が製造労働者で有意に高かった。
したがって、TDI に過敏ではない労働者が0.003 ppm (0.022 mg/m3) 付近のTDI に長期間暴露されても、肺機能は悪化しない。
しかし、製造過程で労働者がTDI 以外の刺激性物質にも暴露されているので、呼吸器疾患と眼及び喉頭粘膜刺激の発症頻度を高めている原因物質を特定できないと結論されている (Omae et al., 1992a)。
4 年間の追跡研究では、ポリウレタンフォーム製造労働者57 人と対照群としてTDI 非暴露の労働者24 人が対象とされた。
短時間のピーク暴露濃度0.003 ppm を基準に、それ未満を低暴露(L) 群、以上を高暴露 (H) 群に分類した。
非暴露 (24 人)、L (28 人)、H 群 (29 人) の平均年齢は、それぞれ、38.7、37.4、37.0 歳であり、就業平均年数は不明、17.4、16.5 年と有意差はなかった。
しかし、喫煙率はH 群の方がL 及び非暴露群より有意に低かった。
個人モニターデータから算出された平均TWA は、L 群で0.0001 ppm、H 群で0.0057 ppm であった。
1981~1985 年に肺機能検査が行われ、身長と年齢で調整された肺機能指数値及び年間減少平均値に、H、L群と対照群との間で有意差はなかった。
H 群を更にピーク濃度で0.03 ppm を基準にそれ以上をH1 群 (15 人)、未満をH2 群 (14 人) の2 群に分けると、ピーク濃度、平均TWA 濃度は、それぞれ、H1 群では0.03~0.08、0.0082 ppm、H2 群では0.003~0.014、0.0017 ppm であった。
H1群の労働者の肺機能を示す呼気流量指数のうち、%MMF (測定値/期待値×100)、%FEV1%(FEV1/FVC×100 の測定値/期待値×100) の年間平均減少値は、期待値及びL 群と比べて有意に大きかった。
H1 群の閉塞性肺機能指数の%MMF、%FEV1%の年間平均減少値は、H2、L 群及び非暴露群より有意に大きかった。
また、これらの年間平均減少値は、喫煙習慣の有無にかかわらず、4 群で同じ傾向を示したが、減少の程度は喫煙者の方が大きかった。
これらの結果から、製造労働者に生ずる閉塞性肺機能変化は、TWA より寧ろピーク濃度に影響され、短時間であっても0.02 ppm (0.14 mg/m3) より高いTDI 濃度に暴露されると、肺機能が低下することが示されている (Omae et al., 1992b)。