8.ヒト健康への影響
8.1 生体内運命
m-トリレンジイソシアネート (TDI) のヒト及び実験動物に対する生体内運命の試験結果を表8-1 に示す。
TDI は生体中の水と複雑な反応を起こし、濃度が低い場合にはトルエンジアミンになりやすいが、濃度が高い場合にはオリゴウレア、ポリウレアになりやすい。
空気と接する気道においてはTDI の加水分解反応は起こりにくく、付加体形成が主な反応である (5.2.1 参照; Alloport etal., 2003)。
a. 吸収
男性ボランティア 5 人にTDI を吸入暴露し、TDI の体内吸収が調べられた。
被験者は非喫煙の健常者であり、2,4-TDI と2,6-TDI の混合比がおよそ1: 1 のTDI (2,4-TDI:2,6-TDI 混合比, 48:52)蒸気を換気した小部屋内で7.5 時間全身暴露された。TDI 空気中濃度はフィルター式モニターで常時測定され、36~43μg/m3 であった。
暴露開始から24 時間まで定期的に採血し、試料を塩酸中で酸加水分解した後、2,4-トルエンジアミン (2,4-TDA) または2,6-トルエンジアミン(2,6-TDA) として質量分析法で定量分析した。
血漿中2,4-TDA 平均濃度は、暴露中に増加し、終了時点で最大の2.2μg/L となり、その後24 時間でも2.2μg/L であった。
2,6-TDA 平均濃度もまた暴露中に増加し、暴露終了時点で2.2μg/L となり、その後24 時間で2.4μg/L であった。
この実験では、試料を酸加水分解して定量分析しているため、血中のTDA がTDA 自体かTDA抱合体かは不明である (Skarping et al., 1991)。
これらの結果は、TDI はヒトの吸入経路を介して体内に吸収され、血液中に分布することを示す。
軟質ウレタンフォーム製造の 2 工場で、作業中にTDI に暴露された労働者11 人の血液を採集し、血漿を酸加水分解した後、2,4-TDA、2,6-TDA の定量分析を行った。
2 つの製造工場におけるTDI の空気中の組成 (2,4-TDI:2,6-TDI 混合比) と測定濃度は、それぞれ、60:40~5:95、0.4~4μg/m3 及び65:35~30:70、10~120μg/m3 であった。
4~5 週間の長期休暇期間前に測定した2,4-TDA の血漿中濃度は、2~23μg/L、2,6-TDA の血漿中濃度は、7~24μg/L であった。
休暇中の測定結果から、血漿中の半減期は、2,4-TDA、2,6-TDA ともに21 日間と算出された (Lind etal., 1996)。
TDI (2,4-TDI:2,6-TDI 混合比, 80:20) を原料として用いたスウェーデンのウレタンフォーム製造工場の製造業務労働者4 人とボランティア1 人からTDI の体内吸収が調べられた。
4 人が従事した工場内のTDI 空気中濃度が3 日間測定され、その平均空気中濃度は29.8μg/m3 であり、最大濃度は3,000μg/m3 であった。
3 日間 (1 日8 時間) の勤務後の被験者から血液が採集され、採集した試料を酸加水分解し、遊離した2,4-TDA と2,6-TDA が定量分析された。
4 人の血漿中の2,4-TDA、2,6-TDA 濃度は、それぞれ、1~38μg/L、7~24μg/L であった。
一方、ボランティアはTDI 15~26μg/m3 に3 日間暴露された。TDA の血漿中濃度は暴露終了後24 時間で最大になり、2,4-TDA、2,6-TDA 濃度は、それぞれ、3.8μg/L、2.7μg/L であった。
半減期はともにおよそ10 日間であった (Tinnerberg et al., 1997)。