6.暴露評価
この章では、大気、公共用水域、飲料水、食物中濃度の測定データの収集、整理と、PRTR排出量データから大気、河川水中濃度の推定を行い、水生生物のリスク評価を行うための推定環境濃度 (EEC) と、ヒト健康のリスク評価を行うための吸入経路及び経口経路の推定摂取量を決定する。
6.1 環境中濃度
6.1.1 環境中濃度の測定結果
ここでは、環境中濃度の測定報告について調査を行い、その結果について概要を示す。
また得られた報告を基に、暴露評価で用いる濃度の採用候補を選定する。
a. 大気中の濃度
m-トリレンジイソシアネート (TDI) の大気中濃度に関する測定結果は、調査した範囲内では
得られていない。
b. 公共用水域中の濃度
TDI の公共用水域中濃度に関する測定結果は、調査した範囲内では得られていない。
c. 飲料水中の濃度
TDI の水道水中濃度及び地下水中濃度に関する測定結果は、調査した範囲内では得られていない。
d. 食物中の濃度
TDI の食物中濃度及び魚体内濃度に関する測定結果は調査した範囲内では得られていない。
6.1.2 環境中濃度の推定
ここでは、数理モデルを用いて大気及び河川の濃度推定を行う。
また食物に関する測定結果が得られなかったため、魚体内濃度の推定も行う。
a. 大気中濃度の推定
TDIの2002年度PRTR排出量データと広域大気拡散モデルAIST-ADMER ver. 1.01 (産業技術総合研究所, 2003; 東野ら, 2003) を用いて、全国11地域 (北海道、東北、北陸、関東、中部、東海、近畿、中国、四国、九州、沖縄) の大気中濃度を推定した。
大気への排出量分布の推定届出データについては、事業所所在地を排出地点とし、排出地点が特定できない推計値 (対象業種届出外、非対象業種、家庭、移動体からの排出) については、各種統計データを利用し、メッシュデータによる排出量分布の推定を行った (製品評価技術基盤機構, 2005)。
各地域での推定値を表 6-1に示す (製品評価技術基盤機構, 2005)。
全国の年平均の最大値は、東海地域における0.20μg/m3であった。
表 6-1 m-トリレンジイソシアネートの年平均大気中濃度推定結果
計算対象地域 最小(μg/m3)最大(μg/m3)
北海道 1.6×10-10 4.9×10-4
東北 1.8×10-9 1.1×10-2
北陸 1.1×10-8 3.8×10-5
関東 2.3×10-7 4.9×10-2
中部 8.1×10-8 2.9×10-3
東海 2.0×10-8 2.0×10-1
近畿 5.4×10-8 4.8×10-2
中国 5.3×10-8 2.9×10-2
四国 7.9×10-10 2.7×10-3
九州 3.0×10-11 2.5×10-2
沖縄 0 3.4×10-6
(製品評価技術基盤機構, 2005)
b. 河川水中濃度の推定
TDIは2002年度PRTR排出量データによると、河川への排出がない (4.4 参照) ので、数理モデルによる河川水中濃度の推定は実施せず、0μg/Lとした。
なお、本評価書では大気、土壌から河川への移動は考慮しない。
c. 魚体内濃度の推定
TDI の魚体内濃度は、海域に生息する魚の体内に濃縮されると仮定し、海域中濃度と生物濃縮係数 (BCF) を乗じて魚体内濃度を推定する。
TDI は海域中濃度の測定値が得られず、水中で速やかに加水分解することから、海域中濃度を0μg/L とし、魚体内濃度を0μg/kg とした。
6.2 水生生物生息環境における推定環境濃度
水生生物が生息するEEC を公共用水域中の測定結果と河川水中濃度の推定結果から決定する。
TDI の公共用水域中の測定値は得られておらず、また、2002 年度PRTR データによると河川への排出がない (4.4 参照) ことから、数理モデルによる河川中濃度の推定を実施せず河川水中濃度を0μg/L とした (6.1.2 b 参照)。
そこで、本評価書では、TDI のEEC を0μg/L とした。