線維筋痛症診療の現状 | 化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 電磁波過敏症 シックスクール問題を中心としたブログです

・出典:一般社団法人日本線維筋痛症学会
http://jcfi.jp/index.html
線維筋痛症診療の現状
東京医科大学医学総合研究所
西岡久寿樹

線維筋痛症対策の進歩

線維筋痛症は、近年、発展途上国を含めて国際的にも増加の一途にあり、原因不明の全身の疼痛と、不眠、うつ病などの精神神経症状や過敏性大腸炎、膀 胱炎などの症状を主症状とする疾患である。
欧米などを中心に、1990年代に入ってから徐々に注目されている疾患であり、リウマチ専門医や、精神科領域あるいはペインクリニックで種々な治療方法へのアプローチが始まっている。

いまだに決定的な治療方法はなく、対症療法の域を出ないが、病因、病態および疼痛の分子メカニズムについては、 ここ数年、研究が国際的にも広く展開されてきている。

本邦では、本症に対する認識がここ数年の間に急速に認識されるに及んでいる。
筆者らは、厚生労働省リウマチ研究班の分科会として本疾患の研究班をスタートさせ、その実態調査を進めてきた。

その結果、多くの患者は適切な診断がなされずに様々な診療科を転々とし、激しい筋骨格系の疼痛により著しいQOLの低下を招いており、極めて深刻な状況であることが明らかになった。
疫学的には都市部では人口の2.0%以上に存在することがわかり、重症患者は 推定50万人、周辺疾患も含めると推定約 200 万人以上にものぼる患者が「放置」されていることが明らかになった。
しかしながら、本症に対する認知度は現在でも一般医はもとより、リウマチ科、精神科、整形外科、ペインクリニックなどの本症と関わりのある臨床医においても著しく低く、各医療機関の診療面において格差が見られるとこから、現在、日本線維筋痛症学会が中心となり診療ネットワークを構築し、確立しつつある。
一方、治療薬に関しては、治療薬剤の効果の研究が進み、本邦でも米国で有効性を確認されたプレガバリンの有効性が確認されるとともに、その標的分子も一部解明されている。

診療ネットワークに登録された患者からみた実態

これまで日本線維筋痛症学会診療ネットワーク(http://jcfi.jp/ )に全国からアクセスされた約3,500 例の臨床データを解析した結果、本症の発症年齢では30代(12.2%)、40代(11.6%)、50代(11.2%)の順で多く、男女比は男16.8%:女83.2%と女性が有意であり、これまで研究班で行っていた疫学調査とほぼ一致していた。

また、患者の発症から受診までの期間について分析したところ10年近くが79.9%と多く、症状発症から診断までが著しく困難であることがわかった。
その原因の一つには主訴の多彩なことにある。例えば、全身疼痛が47.8%と圧倒的に多く、次いで関節痛(5.1%)、しびれ(4.1%)など多彩な症状が多い。

疼痛発症の要因をメンタル面から分析したところ、睡眠障害が26.9%と多く、ついで引越し、家事、天候などの日常生活のストレス(23.1%)、 出産、妊娠、更年期 障害などの女性特有の症状(16.8%)、結婚、死別、虐待など家族関係のストレス (8.9%)、特に小児ではいじめ、受験などの学校のストレス(2.1%)等が目立った。
また、肉体的損傷がトリガーとなった要因を分析すると、基礎疾患(56.2%)、手術(21.2%)、交通事故、転倒などの外傷(16.0%)、スポーツによる外傷(3.8%) が目立っていた。

この肉体的損傷のトリガー要因の半分を占めている基礎疾患を分析したところ、 筋骨格系疾患(26.3%)、内科系疾患(25.3%)、リウマチ・膠原病疾患(13.4%)、精神疾患(10.0%)、歯科治療(5.2%)が要因として多かった。 一方、本症の診断には ACR1990 年の基準が用いられているが、特異的なマーカーはほとんどなく、診断及び治療上大きな障害となっている。

疼痛発現機序の解明

本症の主症状である疼痛誘因には、中枢性の神経因性疼痛の成因に関与する分子機序の解明が必須であると考えられる。

そのような視点から本症をみると その発症の引き金には、外因性と内因性というエピソードが存在する。また双方が混在している場合もある。

筆者らは、自験例の詳細な解析に基づき、次のような発症仮説を提示している。

すなわち線維筋痛症には、他疾患と同様に遺伝的素因が存在する。

実際に筆者らは、一卵性双生児の両者に線維筋痛症が発症した症例を経験している。

文献的にも遺伝的素因を強く示唆する症例や研究 結果も少なくない。
また、疼痛への感度が著しく上昇している場合とその域値は正常でも著しく疼痛を感じるケースが存在する場合もある。

この難治性疼痛症の疼痛の原因は 心因的なストレスの他、温度や気圧の変化、騒音などに反応して誘発されるが、 近年分子疼痛レベルからのこの分野の解析は徐々に進展している。