7.検査ではどのような異常がみられますか?
線維筋痛症は機能性の病気であることより、広く行われている通常の一般的検査で異常を認めないのがこの病気の特徴です。
一方、同様の症状を呈しても明らかな検査異常を認める場合は、線維筋痛症の診断そのものが否定的です。
リウマトイド因子(リウマチ反応)や抗核抗体は基本的には陰性です。
しかし、他の病気に随伴する続発性線維筋痛症では、その疾患として検査異常所見が当然みられます。
最近、脳画像検査に大きな進歩があり、脳の機能的MRI検査やPET-CT検査で脳内における痛みの情報を処理する部位の異常の存在が明らかにされており、今後のさらなる進歩によって、線維筋痛症の診断のための検査として用いることが出来るかも知れません。
8.この病気はどのように診断しますか?(診断)
線維筋痛症は自覚症状が多彩にもかかわらず、身体の各部位に圧痛点を認める以外、診察所見や各種検査異常を認めない機能性のリウマチ性疾患であることから、一定の約束事項を満たすかどうかで診断・分類されます。
そこで、アメリカリウマチ学会が1990年に診断基準ともいうべき分類基準を提案し、その有用性から国際的に広く用いられており、わが国でも日本人を対象にしてその有用性が検証され、診断基準として用いられています。
すなわち、全身的な慢性(3ヶ月以上)疼痛に加えて、少なくとも特徴的身体の部位18ヶ所のうち11ヶ所以上に圧痛点を確認することからなります(図1)。
また、20年ぶりにアメリカリウマチ学会から新しい診断基準(2010年基準)が提案され、線維筋痛症の症状の組み合わせからなり、簡便なことからプライマリケア医の段階でも容易に診断ができるように工夫されています。
この新しい診断基準が日本人でも使えるかの検討が現在行われています。
9.この病気にはどのような治療法がありますか?(治療)
線維筋痛症は原因不明のため、現状では残念ながら根治療法はありませんが、これまで数多くの薬物療法や非薬物療法が試みられてきました。治療原則は不必要な治療をできるだけ排除し、患者・家族に病気を理解し、受容し、睡眠の調整、適正な有酸素運動を行い、医療側・家族や周囲が患者を支援することです。
薬物療法は抗うつ薬と抗けいれん(てんかん)薬がしばしば使用される主要薬剤です。
抗うつ薬は三環系抗うつ薬よりは副作用の少ないセロトニン選択的再取込阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)やノルアドレナリン作動性選択的セロトニン作動薬(NaSSA)などがもっぱら使用されます。
我が国でもいくつかの抗うつ薬の治験が行われており、近い将来保険診療で用いることができます。
抗うつ薬は疼痛の下行抑制系を賦活化(ブレーキ作用の強化)して痛みの緩和が期待されます。
この薬剤は少量就寝時から始め、必要に応じて増量されますが、うつ病治療とは異なって、大量投与は行われません。
一方、抗けいれん(てんかん)薬は従来薬ではなく、ガバペンチン(商品名ガバペン)、プレガバリン(商品名リリカ)などの新規型の抗けいれん(てんかん)薬の効果が注目されており、我が国でも2011年6月から保険適応となり薬物療法としての第一選択薬とされています。
リリカ®少量も少量から漸増法で投与されます。
発症早期症例の効果はかなり期待できますが、長期難治性で経過した症例では効果は限定的です。
主な副作用はふらつき、めまい、眠気、だるさ、体重増加や浮腫などです。
その他の抗けいれん(てんかん)薬も保険適応外ですがリリカ®が使用できない症例では処方されますが、そのなかでムズムズ脚症候群の治療薬でありガバペンチン エナカルビル(商品名レグナイト)の効果が注目されています。
一方、急性の痛みなどにしばしば使われる消炎鎮痛薬(非ステロイド抗炎症薬; NSAIDs)や副腎皮質ステロイドは無効であり、オピオイド系薬物(麻薬性、非麻薬性)も効果が限定的ですが、そのなかでトラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン(商品名トラムセット)は慢性疼痛として線維筋痛症でもしばしば使用されます。
その他にわが国では線維痛症の基礎薬物療法としてワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(商品名イロトロピン)が使用されますが、単独では効果が弱く、点滴、トリガー治療として、あるいは他剤との併用が行われます。
しかし、承認保険容量では不十分です。
本剤も疼痛の下行抑制系の賦活作用により疼痛緩和に働くとされています。
さらに、生薬である附子単独、あるいは附子を含む各種方製剤も使用されますが、前述の薬剤ほど効果に関して明確ではありません。。
一方、非薬物療法として鍼灸療法、マッサージ、リラクゼーション、ヨガ、気功などを含めた各種代替・補完医療も行われています。
このなかで、科学的に有効性の確認されているのは認知行動療法と有酸素運動療法ですが、効果は薬物療法に比して弱く、また我が国では積極的に行える医療体制ではありません。
線維筋痛症の治療目標は痛みの完全な消失でなく、痛みやその他の自覚症状の緩和をはかり、病気発症で失った生活機能の改善を目指すことです。したがって、病気の理解と受容が重要であり、治療により日常生活機能(ADL)、生活の質(QOL)の改善、向上を目指すことが目標です。
このような観点から日本線維筋痛症学会では医療者を対象として「線維筋痛症診療ガイドライン」を作成し、我が国の線維筋痛症を取り巻く医療環境の変化を速やかにガイドラインに取り入れるために、2009,2011, 2013年と2年ごとに改定しています。
10.この病気はどのような経過をたどるのですか?( 臨床経過、予後 )
線維筋痛症は基本的に生命予後にはまったく問題がなく、本症が原因での死亡例の報告はありませんが、既存疾患に併発する続発性の場合、たとえば膠原病に併発する場合、その膠原病が原因となって死亡に至ることはあります。
経過は根治療法なく、難治性であることから長期に経過し、日常生活動作能(ADL)や生活の質(QOL)は著しく低く、機能的予後が問題となります。
また、長期経過例では一層、機能的予後は悪く、回復が極めて困難となるとされています。欧米では線維筋痛症は長期経過とともに自殺率が増加するための対策も治療とともにケアにあたって重要とされています。
一方、小児例は比較的経過良好で大部分は1~2年以内に回復します。
本邦例では84%の患者が外来通院管理下であり、1年間でわずかに1.5%のみが回復し、半数が軽快、残り約半数が不変か悪化しています。
日常生活に対して半数がほとんど影響を受けませんが、残り半数が何らかの影響を受けており、約1/3が休職・休学にならざるを得ません。休職・休学の期間は平均3.2年です。
11. 患者支援団体などはありますか?(友の会)
我が国では医療者、国民ともに線維筋痛症に対する認知度が低いため患者は耐えがたい痛みのみならず周囲の無理解、誤解で精神的苦痛も強い状況にあるため、患者会「NPO法人線維筋痛症友の会」が組織され支援活動を行っています。
また、わが国における線維筋痛症の適正な医療を推進し、原因・病態の解明、治療法の開発研究とともに専門医の育成などを目的に「日本線維筋痛症学会」が組織され、学術活動、医療者への教育活動を積極的に行っています。
いずれも団体のホームページから線維筋痛症の診療可能な医療機関(線維筋痛症診療ネットワーク)が検索できます。
NPO法人線維筋痛症友の会 http://www.jfsa.or.jp/
日本線維筋痛症学会 http://jcfi.jp/