・出典:公益財団法人日本リウマチ財団
http://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/rm120/kouza/senikintsu.html
1. 線維筋痛症とは?(疾患概念・定義)
線維筋痛症 (FM)は関節、筋肉、腱など身体の広範な部位に慢性の「痛み」と「こわばり」を主症状とし、身体の明確な部位に圧痛を認める以外、診察所見ならびに一般的な臨床検査成績に異常がなく、治療抵抗性であり、強い疲労・倦怠感、眼や口の乾燥感、不眠や抑うつ気分など多彩な身体的訴えがみられ、中年以降の女性に好発する原因不明のリウマチ類似の病気です。
線維筋痛症は新興疾患ではなく、古くから同様の病気の存在は知られており、心因性リウマチ、非関節性リウマチ、軟部組織性リウマチ、結合組織炎、あるいは結合組織炎症候群などで呼ばれていましたが、1990年アメリカリウマチ学会による病気の概念と定義、分類(診断)基準が提案され、線維筋痛症あるいは線維筋痛症候群が一般的となりました。
一方、我が国では数年前までは国民のみならず医療者間でもこの病気に対する認知が極めて低いことが問題でした。
しかし、最近急速にこの病気に対する認知度が医療者間で高まってきましたが、診療を避ける医師が多いことが大きな問題となっています。
2.この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?(疫学)
アメリカでは一般人口の約2%(女性3.4%、男性0.5%)に線維筋痛症がみられるとされており、他の欧米の報告でもこの数値に近い有病患者率を示していますが、我が国での有病患者数についてはこれまでまったく不明でした。
そこで、厚生労働省の線維筋痛症に関する調査研究班による住民調査によって線維筋痛症患者数は一般人口当たり1.7%、すなわち約200万人と推計され、欧米の患者数とほぼ同じであることが示されました。
これは関節リウマチが我が国ではおおよそ70万人であることに比して、明らかに頻度の高い病気です。
2011年我が国でインターネット調査が行われ、我が国の線維筋痛症の有病率は先の住民調査と同様に人口当たり2.1%と推計されました。
しかし、この病気の治療や管理に一定のスキルが必要とされることから医療機関やリウマチの専門医を受診している患者数はわずか年間4,000名前後であり、有病者数との間に大きな乖離があることも特徴です。
3.この病気はどのような人に多いのですか?( 性別、年齢分布 )
性差は圧倒的に女性が優位であり、わが国では男:女=1:5(欧米1:8~9)です。
平均年齢は51.5±16.9(11~84)歳で、年齢とともに増加し、55~65歳代にピークを認めます。小児は全体の4.1%にみられ、12%が65歳の高齢者が占めるとされています。
また、発病年齢の平均は43.8±16.3(11~77)歳です。
4.この病気は遺伝するのですか?(遺伝)
線維筋痛症が家族内で発症することは欧米では古くから知られています。
すなわち、一親等の52%(女性では71%、男性35%)に線維筋痛症類似の症状が出現し、家族内発生、家族集積性が存在するといわれていますが、明らかな直接的な遺伝的関係はないとされ、むしろ環境的な要因が重要であるとされています。
5.この病気の原因はわかっているのですか?(病因)
これまでさまざまな検討が行われてきましたが、線維筋痛症の原因は現状では明らかではありません。
疼痛を訴える部位(関節、筋肉、腱、内臓など)には明らかな異常が見いだせず、この病気の疼痛は帯状疱疹後の神経痛、糖尿病性神経障害時の疼痛やがん性疼痛のような神経障害性(痛み情報を伝達する神経経路の障害)疼痛であり、また脳における痛みの情報の処理に障害のある中枢性疼痛です。
この病気の痛みの仕組みとして最近注目されているのは、この病気発病の素因をもった人に各種身体的、精神的ストレス反応が加わることによって、痛み刺激の伝達路(疼痛知覚神経)の過剰興奮(車のアクセルの踏み込み状態)と痛みを脳が認識した時に反応する痛みを抑える経路(下行疼痛抑制経路)の機能不全(車のブレーキが効かない状態)であり、いわば車のアクセルが踏み込まれ、ブレーキの効かない暴走状態です。
したがって、治療もアクセルを戻す(痛み神経の過剰興奮を抑える)薬剤やブレーキ機能を高める(下行性疼痛抑制系の賦活)薬剤が使用されます。
6.この病気はどのような症状がおきますか?(臨床徴候)
線維筋痛症の中心症状は全身の広範な慢性疼痛と身体の一定の部位の圧痛です。
疼痛は身体の中心部に集中する傾向があり、全身性のこわばりをしばしば伴い、症状は朝に悪化するなど関節リウマチに類似します。
また、慢性痛であっても、日差・日内変動があり、しかも激しい運動や逆に不活動、あるいは睡眠不足、情緒的ストレス、天候などの外的要因によって悪化することが多く、他の疾患に随伴する続発性の線維筋痛症では元の病気の悪化・再燃が線維筋痛症をも悪化させます。
一方、疼痛とこわばり以外に、多くの場合にさまざまな随伴症状を伴うことが知られています。
すなわち、身体症状として種々の程度の疲労・倦怠感、微熱、口や眼の渇き、手指の腫れ、皮膚の循環障害(リベド症状、レイノー現象など)、寝汗、過敏性腸症候群様症状(腹痛、下痢、便秘)、動悸、呼吸苦、嚥下障害、膀胱炎様症状、体重の増減、気温への順応困難、顎関節症症状、各種アレルギー症状、心雑音(僧帽弁逸脱)、低血圧症状など、神経症状には頭痛・頭重感、四肢の感覚障害、手指ふるえ、めまい、浮遊感、耳鳴り、難聴、筋力低下、まぶしさ、みにくさなどがあり、精神症状には不眠(睡眠時無呼吸症候群を含む)、抑うつ気分、不安感、焦燥感、集中力低下、意識障害、失神発作などがあります。
臨床症状のうち日本人では欧米症例に比して、口や眼の乾燥、疲労・倦怠感、抑うつ気分、頭痛、不安感の出現頻度が高く、手の腫れは低くなっています。
一方、線維筋痛症は先行する他の疾患に合併して発症することがあり、続発性(二次性)線維筋痛症といわれ、他の疾患を併発しない場合は原発性(一次性)といわれ、我が国では3:1と原発性が優位であり、続発性の基礎疾患として、リウマチ性疾患が比較的多く、関節リウマチ、変形性関節症、腰臀部痛症候群、頚肩部痛症候群などの頻度が高く、その他に全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、強直性脊椎炎、甲状腺機能低下症などがあります。