その14:第3部:化学物質過敏症に関する情報収集、解析調査報告書 | 化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 電磁波過敏症 シックスクール問題を中心としたブログです

2)治療方法
化学物質過敏症等についての治療方法については、その原因の特定や診断と同様にさまざまな課題を抱えており、根本的な治療に結びつくような知見は今までのところ得られていない。
ここでは、厚生労働省の「室内空気質健康影響研究会報告書-シックハウス症候群に関する医学的知見の整理-」(平成16 年2 月、室内空気質健康影響研究会)において、化学物質過敏症の治療と対策について述べた「北里研究所病院における知見-治療を中心として」(平成16 年2 月、石川哲)より述べる。
化学物質過敏症に対する有効な治療の手順は、次の3項目にまとめられる。
・自覚症状を誘発する原因物質からの回避
・患者教育(カウンセリングを含む)
・身体状況の改善と有害化学物質の代謝及び排出の促進
以下に各治療方法等について引用する。

① 自覚症状を誘発する原因物質からの回避
有害化学物質の微量曝露によって生じると理解される本症では、症状を誘発する有害因子あるいは誘発している可能性のある有害因子からなるべく早期に離れる、滞在する時間を短くする、使用を控えることが、ある意味では最も有効な対策である(原因物質からの回避)。

しかしながら、家庭生活・社会生活を営んでいる以上、それを実行できる例はむしろ稀で困難な場合が多く、原因に対応する対策を講じることのほうが現実的である。例えば、化学物質過敏症発症と最も深く関係している居住環境の悪化(室内空気汚染)が原因となった例では、有害化学物質の発生量の抑制と有効な換気システムの設置が最も重要である。

有害化学物質の発生は、その発生源を絶つことが最も効果の高い方法である。施工業者と今後の対応について十分に相談することを勧め、詳細な空気測定を実施し、建築工学的な理論に基づいた対策を講じさせる。

そして対策後は、室内空気汚染がどの程度改善されたか確認するため、有害化学物質の再測定が必要である。

また、身の回りの生活用品も含め、多くの種類の化学物質との接触で自覚症状が誘発され、強く社会生活が制限されている重症例では、転地療養(隔離施設の利用)が有効である。現在、化学物質過敏症療養用施設は、旭川市郊外(旭川市によって運営・旭川医科大学医療協力)をはじめ、数ヶ所の施設がオープンあるいは建設中
である注1)。
――――――――――
注1) 現在、北海道旭川市に一時転地住宅(1軒)が、また、伊豆半島修善寺に脱化学物質コミュニティー(複
数棟)があり、いずれもNPO 法人の化学物質過敏症支援センターが運営を行っている。
(転地・住宅のご案内:旭川・化学物質過敏症転地住宅、あいあい姫之湯(伊豆・脱化学物質コミュニティー)、化学物質過敏症支援センターホームページ)

② 患者教育
本症では、自律神経機能障害を呈することが多く、生活リズムそのものが乱れているケースが多い。睡眠不足、食生活の乱れなど、患者の日常生活の問題点を指摘し適切な指導・助言を行っている。

栄養士・看護師による基本的な食生活の指導は原則として全ての患者に行う。

また、患者に対して有害化学物質の少ない生活環境を作るための適切な助言を行うためには、医療スタッフ自身が有害環境因子に対する知識の引き出しを豊富に持っていることが必須である。

特にシックハウス症候群の発症と関連する建材および関連品から放散する揮発性有機化合物の特性・対策については、熟知している必要がある。

さらに患者では不安尺度と抑うつ尺度が高い傾向が認められ、心理社会的因子は化学物質に対する感受性にも影響を与える可能性がある。よって自覚症状の適応力を強化するための心理カウンセリングは、特に自覚症状の軽減に有効である。

心理カウンセリングにおいても、担当する医療スタッフが有害環境因子に関して患者以上に十分な知識を有する必要性のあることは言うまでもなく、我々の施設では、環境医学を熟知した精神科医あるいは心療内科医が関与している。

③ 身体状況の改善と有害化学物質の代謝及び排出の促進
a)運動と入浴
北里研究所病院では、積極的に運動・入浴療法を患者に勧めている。

軽度の運動、入浴(一般家庭、サウナ、単純温泉)などによって発汗を促すことは、自律神経機能を刺激・調節する効果もさることながら、体内に取りこまれた有害化学物質は主として水溶性の代謝産物として体外に排出されるため、自覚症状の改善に有効である。

一日に必要な運動量に関しては、個々にとって疲労の残らない程度の運動が好ましいが、推奨される標準的な運動強度としては、「ゆっくり歩いて30 分程度」が最も患者に受け入れられる運動量である。

入浴に関しては、静水圧の影響を受けにくい半身浴が好ましく、湯温は、日本人の平均的感覚では「少し温い」と感じる39℃前後が、交感神経刺激が少なく理想的である。サウナに関しては、米国においても本症の自覚症状の改善、発汗促進に積極的に利用されているが、米国では60℃前後の低温サウナが利用されている。

日本で普及しているサウナは90℃以上の高温サウナが主流であり、ストレッサ一に対する抵抗力の低下している本症患者では、高温サウナは温熱ストレスとなり逆に症状を悪化させる場合が多く、勧められるものではない。

b)栄養補助
食生活に対する指導を徹底させた上で、さらに栄養補助を行う。有害化学物質の代謝・排出に有効なビタミン類やミネラル類の補給は、自覚症状の軽減に有効な場合が多い。

また、本症患者の一部には、第1 相の薬物代謝酵素であるチトクロームP450系酵素群の一つであるCYPIA2 の克進が認められること、また第2 相のグルタチオン抱合を触媒するGlutathioneS-Transferase(GST)酵素群の欠損・活性低下・誘導遅延等が認められ、結果的に患者が酸化ストレス状態にあるとの報告もある。我々も患者群においてGST 酵素群の欠損が認められる頻度が、健常群に対して明かに高いことを経験している。

よって還元型グルタチオン、抗酸化作用を有するビタミン類の経口補給を積極的に行う。

重症例では、アスコルビン酸、ビタミンB 群、還元型グルタチオン、マグネシウムに加え、院内製剤として亜鉛(硫酸亜鉛)、セレン(亜セレン酸)等の点滴静注を行い全身状態の改善を認めている。

点滴を施行するにあたって、可塑剤溶出の心配のないガラス製のボトルを用いること、同様に点滴チューブも可塑剤流出の心配のないトリブタジエン製のものを使用するなどの配慮が重要である。

c)酸素療法
Simon は、本症においてSPECT 上、大脳皮質の画像上の器質的変化はほとんど認めないが、機能的に微小循環系の血管炎および血管周囲の局所浮腫に伴う血流量の低下を認めるとし、我々もSPECT 上、同様の所見を得ている。

さらに本症では、静脈血酸素分圧(PvO2)が比較的高値(30mmHg 以上)を示すことが多く、患者では生理的A-V シャントと同様の変化が生じ、各組織での酸素利用率が低下していると考えられるが、そのメカニズムの詳細は現在までのところ不明である。

しかしながら、酸素吸入を施行することにより、自覚症状の軽減もさることながら、PvO2 も正常値(25mmHg 以下)に帰することが観察されるため、本症において酸素吸入療法は考慮すべきである。我々は酸素療法を施行するにあたって患者の過敏性を考慮し、ベンチュリーマスクは、ケナフ製(耗製)の特注品を用い、一般的な酸素チューブは、ステンレス製のものを用いている。

d)米国における中和療法
北里研究所病院では、未だ施行していないが、米国においては、患者の過敏性症状を誘発する原因化学物質に対する中和療法が積極的に行われている。

元来食物アレルギー患者に対して始められた治療法を化学物質過敏症に応用したものである。

アレルゲンの用量を徐々に上げていく従来の減感作療法と異なり、中和療法では逆に濃度の高いものから低いものを順番に皮内に投与し、生じた膨疹の状態から個人の中和量を決定し、それを投与することにより症状の軽減化を図るというものである。

今後本邦においても有効な治療法の一つとして考慮されるものと思われる。
「室内空気質健康影響研究会報告書-シックハウス症候群に関する医学的知見の整理-」(平成16 年2 月)


runより:第3部はこれにて終わり、2日にまたぎましたが昨日は途中で調子が悪くなったので基本的には1日で終われせるつもりです。