・平成15 年度調査における被験者の薬物代謝酵素群GSTs(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ酵素群)発現の評価結果を表-4.1.7 に示す。
GSTsは動植物、微生物にも普遍的に存在し、細胞内で含硫黄還元性物質グルタチオンがさまざまな毒物に結合することにより弱毒化し、あるいは水溶性にすることで解毒作用を発揮していると考えられている。
表-4.1.7 から明らかなように、3種類のGSTsのうち、被験者の8 人中、7 人までがいずれかを欠損する結果となっている。
また、平成15 年度の正弦波による追従性眼球運動測定結果に対するサッケード値による評価結果を表-4.1.8 に示す。
サッケード値とは、眼球運動測定装置により測定された追従運動(振幅±20°、周波数0.4Hz の正弦波による測定)から、衝動性眼球運動(Saccade:サッケード)の出現の大きさを、一周期分の振幅に対する追従できなかった高さ(a+b+c+d・・・)の合計の占める割合をいい、以下のような式によって表される。
サッケード値=(a+b+c+d+e・・・)/振幅×100この値が25%以上の場合、追従運動が円滑にできない異常値と判定されている。
同表によると、水平サッケード値で9 例中6 例、垂直サッケード値で9 例中8 例と、いずれも異常値の検出率は高いものとなった。
表-4.1.8 追従性眼球運動測定結果に対するサッケード値による評価結果
一方、動物モデル研究では、化学物質として過敏状態の誘導に関与している可能性の高いホルムアルデヒドをとりあげ、まず単一の低濃度曝露を行って過敏状態の指標になりえるものを探るために神経―免疫―内分泌軸に関与する分野での検討を始めた。
初年度(平成12 年度)は、実験動物の選択、曝露濃度、曝露期間、影響指標の選択を行い、2年度以降は本格的な実験に取り組んだ。
実験動物としてC3Hマウスを用い、0, 80, 400, 2000ppb ホルムアルデヒドの低濃度3 ヶ月曝露などを行い、以下の研究項目についての解析を行った。
各研究結果についてのまとめを併せて示す。
・ 低濃度のホルムアルデヒドに長期曝露されたマウス嗅覚系の形態学的解析
・ ホルムアルデヒド及びトルエンの長期曝露が視床下部―下垂体―副腎軸に及ぼす影響
・ 脳内海馬での情報処理変化の検討
・ 低濃度長期ホルムアルデヒド及びトルエン曝露の免疫系、及び神経-免疫軸への影響についての検討
・ ホルムアルデヒド曝露後の自発運動量の観察、およびホルムアルデヒドあるいはトルエン吸入曝露によるマウスのくしゃみ様症状の定量
・ その他の影響
この結果、ホルムアルデヒドの長期曝露により、マウスの組織標本の解析からは嗅覚系ニューロンの増加などの形態的な変化が見られ、行動試験からは不安情動の増強や回避学習の促進が、また、濃度依存的にくしゃみ様行動の増加が認められるなど、低濃度のホルムアルデヒド曝露が嗅覚系を介して、神経-内分泌-免疫軸を過敏な状態に導く可能性を示唆する結果となった。
このことから、同報告書では、中毒学領域として捉えられていない濃度域での反応や、通常のアレルギー状態とは異質の反応が観察されたことにより、低濃度曝露がなんらかの反応異常を神経-免疫系に引き起こす可能性を否定できない、としている。