2.疲労制御技術の開発
(1)疲労度の定量評価法の確立
①疲労の量と質の疫学調査
第Ⅱ期では、1985年総理府の「国民の健康に関する意識調査結果」と対比可能な疲労疫学調査を実施し、疲労の量と質の時代的変化を解析する。
また、主題の1つであるCFSの日本の有病率が不明なので、全国医療機関を対象にCFS有病率調査を行う。日本における疲労の実態を明らかにするとともに、疲労に陥るリスクファクターを解明し、慢性疲労の予防に向けた国民への提言につながる基礎資料を提供する。
②身体行動モニター・精神機能検査による評価法の確立
第Ⅰ期では、疲労に伴う脳機能低下を定量的に評価するためのAdvanced Trail Making Test (ATMT)やDual Task Test を開発した。
また、単位時間当たりの行動量の計測により疲労状態を客観的数値として捉えることができた。
第Ⅱ期ではこれらの評価方法を用いて実際に激しい疲労状態に陥っているCFS患者と健常者の比較検討を行い、疲労の身体行動モニター・精神機能検査による客観的評価法を確立する。
③非侵襲的脳機能検査による評価法の確立
集中力検査の一つであるATMTを長時間行うことによる疲労負荷を行いながら次々とPET scanを行ったところ、疲労度と相関して大脳皮質ブロードマンの一部の活動が上昇した。
そこで、第Ⅱ期では、fMRIやPETを用いて、健常人に対して疲労度の相関する脳部位の検索と疲労回復過程で働く脳部位について検討し、このような検査で疲労度の定量的評価が可能かどうかを検討する。
④交通による疲労の評価と交通事故防止への提言
長期間運転などによる疲労状態では、反応時間が延長し単純ミスが増加するための事故防止のためにも一定時間以上運転した場合には必ず休息を取る必要性が勧められているが、この指針を実際に検証されていない。運転シュミレーション用器械を改良して様々な反応時間を記録し、12時間連続運転した場合の疲労状態における変化を解明し、交通事故防止への提言を行う。
(2)疲労回復方法の科学的検証と確立
①疲労リセット機構に立脚した疲労回復法
第Ⅰ期では、様々な疲労動物モデルで、劇的に疲労負荷に対する抵抗性が増加してくることが判明した。
この回復過程に関わる因子を究明することができれば、新しい疲労回復・予防の方策を創製することができると考えられる。
また、発熱などの分子機構においては、生体に発熱過程ですでに解熱物質を動員してくるという巧みなリセット機構があることが判明しているので、疲労においても、このような生体がすでに準備しているリセット機構を突き止め、これを増強する方向で研究を行う。
②酸化ストレス防御機構を介する予防回復効果
疲労回復させる、疲労神経回路をリセットさせる機構としての生体還元系の破綻が、全身疲労や激疲労を惹起するとされることから、本研究では、疲労度の生化学的パラメーターの確立、動物モデル系の確立を通じて、酸化ストレス防御機構を増幅する疲労回復法や予防法の開発を行う。
③神経伝達制御系を介する予防回復効果
第Ⅰ期では、動物の疲労の条件付けができること、その条件付けには、セロトニン系が関与することが判明している。
そこで、第Ⅱ期では、疲労によるセロトニン系の変調を是正する方向性の方策を試み、もって神経伝達物質制御による疲労回復・予防法の確立を目指す。
④神経内分泌代謝系を介する予防回復効果
生体防御系調節に重要な役割を果たす神経ペプチドなどのストレスに起因する動態を解析することにより、ストレス後に長時間持続する疲労の神経メカニズムと脳内調節因子を解明する。
また、慢性疲労症候群において異常が判明している神経ステロイドの補充療法や代替療法についても検討を行う。
⑤心理的アセスメントによる予防と回復
快い笑いがストレス解消や健康の維持増進に有用であるという知見を受け、これまで未解明であった快情動の神経回路を明らかにしてきた。
また、笑いが免疫系を活性化するという成果が明らかになった。
第Ⅱ期では、その成果を用いて、疲労及び慢性疲労症候群の笑いによる改善効果の分子神経機構を探る一方で、笑いを用いた疲労回復法や予防法の研究を行う。他の心理アセスメントとして、精神心理専門家によるコンサルテーション等について検討する。
⑥慢性疲労症候群に対する治療法の確立
慢性疲労に関連するウイルスの研究をもとに、ワクチンや予防接種の開発につながる研究を行うとともに、慢性疲労症候群の発生き機序に即した新たな治療法の開発を行う。
また、既存の療法の効果判定を行うとともに、上記研究で得られた新規候補薬剤等についても試行する。
⑦新知見に基づく疲労回復・予防法の開発
本班研究で得られた知見に基づいて、新しい疲労回復法・予防法を考案し、実際に動物モデルや、サル・ヒトへの適用を試みる。
日本オリジナルの疲労回復法および疲労予防法を創製する。
ア.セロトニントランスポーター等の新しい調節薬剤の創製と新規神経細胞死保護薬剤の創製
イ.一般栄養薬、漢方薬や入浴剤による新しい疲労回復法・予防法の開発
ウ.茶の成分、清涼飲料水などの食品関連の新しい疲労回復法・予防法の開発
⑧疲労回復と過労予防に関する国民への提言
以上の本班研究による成果をまとめ、疲労回復と疲労予防に関する国民への提言として、パンフレット、啓蒙書、インターネットホームページ、テレビ番組、イベントなどによる情報の提供を広く行う。
3.研究推進の方策
研究の推進にあたっては、上記2.1および2.2の各項目に対応して第1班・第2班を設ける。第1班では、慢性疲労等を主症状とする病的疲労の研究と、一般的な疲労および疲労感についてその分子・神経メカニズムの解明を行う。
慢性疲労と一般的な疲労には共通の課題および発生機序があることから、相互の知見を共有しながら効率的に研究を進める。
一方、第2班では、第1班の研究成果を見据えながら、疲労度の定量評価法の確立、既存療法等の評価手法の確立を行い、もって疲労回復法・予防法の開発を行う。
これらを統合して、得られた知識を広く提供するとともに、疲労をやわらげることのできる国民生活への提言を行う。
runより:脳の研究をしてる方が他に居るのでほとんど触れませんが化学物質過敏症と共通する所がいくつか見えますね。
これで文部科学省疲労研究班からの情報はお終いです、次の記事は病院後に更新します。