2.研究の概要
1.疲労の分子神経メカニズムに関する研究
(1)ヒト慢性疲労病態の研究
①慢性疲労症候群(CFS)の全体像の解明
第Ⅰ期では、慢性ストレス→神経・免疫・内分泌系の異常→ウイルス再活性化→サイトカイン産生異常→神経細胞機能異常→慢性疲労感という道筋が明らかになってきた。
そこで、第Ⅱ期では詳細な分子機構を明らかにするため種々の神経伝達物質の代謝、輸送体、受容体などの変化と慢性疲労との関連について解析するとともに、CFS患者における遺伝子発現の変化を検討し、CFS病態の全体像を明らかにする。
②慢性疲労とCFSの遺伝子多型解析
CFS患者では、環境要因としてのストレスが発症に関連していると考えられているが、実際にはストレスにより容易に慢性疲労に陥るヒトと陥らないヒトがいる。
この違いはセロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質の輸送体や受容体の遺伝的多型の違いであると考えられることから、本研究ではCFSの易罹患性に関与する遺伝子多型を同定し、より正確な慢性疲労症候群罹患リスクの診断法を確立する。
③感染疾患と慢性疲労
ア.第Ⅰ期では、CFS患者ではしばしば神経親和性ボルナ病ウイルス(BDV)感染が認められること、BDVp24リン酸化蛋白が神経突起伸張に関わるamphoterinとの結合性を示し、神経ネットワークの破綻が引き起こされる可能性があることを明らかにした。
そこで、第Ⅱ期ではCFS患者におけるBDV感染の実態を追究しると同時に、BDVの脳内持続感染による神経細胞の機能異常を分子レベルでより具体的に把握する。
イ.疲労に到る重要な道筋として「ウイルスの再活性化→インターフェロン産生→2-5AS酸素の上昇→異常RNaseL産生→神経細胞機能異常(セロトニン・ドーパミン系)の解明が残されている。
第Ⅱ期では、CFS患者におけるこの検証を行うとともに、ウイルス感染や再活性化に伴い引き起こされる種々のサイトカインの産生異常と疲労病態との関連を解明する。
④慢性疲労と自己免疫
第Ⅰ期では、HHV-6の潜伏感染に必要な遺伝子および蛋白を同定し、CFS患者の約20%ではHHV-6潜伏感染蛋白ORF160に対する異常な免疫反応が生じていることを見出した。
健常人ではORF160に対し免疫寛容が成立しており、CFSでは自己免疫反応類似の反応の存在が示唆される。
そこで、第Ⅱ期ではこの反応によって障害を受ける宿主細胞の種類反応の影響を解明し、この反応と病態との関連を検討する。
⑤慢性疲労の脳・全身代謝病態
第Ⅰ期では、カルニチン細胞輸送タンパク質欠損マウス(JVS)の検討にて、絶食JVSマウスの脳内c-fos発現は延髄での発現が著しく低下していること、心肥大に伴い発現低下する新規遺伝子、(CDV-1/CDV-1Rのゲノム遺伝子構造、JVSマウス心臓で発現増加する新規遺伝子、CDV-3、のcDNAおよびゲノム遺伝子構造などを明らかにした。
そこで、第Ⅱではこれらの脂肪酸代謝障害を来す遺伝子と易疲労性遺伝子との関連について検討するとともに、疲労モデル動物における脳神経伝達物質動態について解析する。
⑥慢性疲労の精神病理と神経伝達物質動態
慢性疲労症候群の治療として、ドーパミン遊離を促進するアマンタジンや、セロトニンのシナプス内濃度を上げるSSRIが奏功するという2つの知見を受け、前頭前野のグルタミン酸神経伝達を補うアセチルカルニチン取り込みのモノアミン系による調節機構を解明する。
また、本研究にて発見した新規アセチルカルニチントランスポーターの脳における発現や疲労との関連について検討する。
⑦小児型慢性疲労病態とリズム障害
第Ⅰ期では、不登校児では自律神経機能低下、メラトニンやコルチゾールなどの内分泌異常、脳内のコリン代謝異常などが認められることを明らかにしてきた。
そこで、第Ⅱ期ではコリン蓄積の意義を明らかにするとともに、疲労の中核をなすと考えている資質及び糖質代謝の面からアセチルCoAおよびATPの挙動を検討する。
またコリン作動系学習細胞群の機能についても31Pを追跡するMRSなど新しい画像解析法を駆使して取り組む。