・出典:文部科学省 疲労研究班
http://www.hirou.jp/
平成15年度
1.研究の趣旨
疲労および疲労感は、現代社会に生きる多数の人が日常向き合っている現象である。
本班研究の調査結果によると、国民の60%が現在疲労を感じており、6ヶ月以上続く疲労感は何と国民の37%に存在する。
そのうち約60%が疾病などの明確な原因が不明のものであり、7%強が日常生活に支障を来すような原因不明の疲労を訴えており、経済的にもゆゆしき問題である。
今後、益々高齢化が進み、老化による病態、脳神経機能、知的能力あるいは免疫機能の低下により、一層疲労や疲労感が広く蔓延することが予想される。
しかしながら、疲労は、既にその対処法が考案されている疼痛及び発熱と同様、重要な生体アラームの一つと考えられているが、これまで疲労メカニズムについての解明はほとんど進んでおらず、それに対処するための科学技術の検討・確立が求められている。
第Ⅰ期における研究成果として、1)慢性疲労症候群の病因についての解析が進み、慢性疲労の主な原因ではないかと考えられるいくつかの手がかりが得られ、また、子供の不登校についても、リズム障害・脳内モノアミン異常が主な病態として取り上げられるに至った。2)
様々な観点からの疲労モデルとして、大別して8つのラットモデルとサルの頭脳作業による疲労モデルを得た。
これらについて疲労評価法を試行し、疲労状態と回復過程における体内因子や神経伝達物質、還元物資(抗酸化能)を定量的に評価する基盤ができた。3)
ヒト疲労についても疲労の定量化方法を試行錯誤し、疲労度の定量化への道筋が見えてきた。
健常人ボランティアに対し頭脳作業による疲労を負荷しつつ経過を追跡する形で、ポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)により疲労に伴う脳内活動の活性化部位を発見した。4)
医療機関受信者へのアンケート調査を行い、プライマリーケアの場でも、上記のような調査結果同様、一般市民の慢性疲労頻度が変わらないことが判明した。
また、治療技術としては、5)一般市民の疲労回復戦略に関わる伝承療法などをデータベース化し、その利用状況について調査を行い、入浴、コーヒー摂取などが疲労回復策として用いられている頻度の大きいものということが判明し、また、慢性疲労症候群を中心とした疲労の治療法として、セロトニン系やドーパミン系を活性化する薬剤による治療がかなり奏功することが判明した。
このような成果を基盤として、第Ⅱ期では、大目標である「国民の疲労制御技術の開発研究」を中心課題として行うことが可能となり、その中で、本質的に「疲労の定量評価」と「治療・予防」というような2つのブロックで仕事は進められる。
さらに、第Ⅰ期における「疲労の分子神経メカニズム」に関する研究を統合的に整理して、より疲労の本質に迫る研究を行うことにより、疲労制御技術の開発に活かす。
これにより、全体の協力体制がより活性化して、発展的・統合的な研究を推進することができるものと考えられる。新しい取り組みとしては、とくに、慢性疲労や易疲労性に遺伝子の関与があるのか、激疲労では神経細胞死までが起こっているのか、そして、第Ⅰ期においては、まだ基盤的研究であったため進行が遅かった高次脳機能や睡眠・リズムと疲労の関連研究を鋭意行い、上記研究の成果をもとにした疲労をやわらげる国民生活についての提言を行う。