CFS患者 60名、健常者79名について補助的検査レベル評価を検証した結果では、表3に示すようにCFS患者の91.7%がレベル2以上であり、41.7%がレベル4と診断されたが、健常者では48.1%がレベル1以下であり、レベル4を満たしている者はみられなかった2)。
このような補助的検査異常はCFSに特有な所見ではないが、CFS臨床診断基準を満たした患者に対して客観的な疲労評価法を組み合わせたレベル評価を行うことにより、強い自覚的な疲労症状だけを訴える患者とCFS患者との区別が可能である。
最近の女子大生の健康に関するアンケート調査結果をみてみると、半数近くの学生に強い疲労関連症状が認められており、CFS患者ではこのような日常生活の中で健常人が自覚している疲労感を単に強く訴えているにすぎないと誤解されていることも多い。
しかし、身体活動量から得られる覚醒時平均活動量を調べてみると、女子大生の疲労度と覚醒時活動量には正の相関がみられ、疲労感が強い学生ほど活動量が多いという結果であった。
このことは、疲労を客観的に評価するバイオマーカーを用いて調べてみることにより強い疲労関連症状を訴える女子大生とCFS患者とを区別することができることを示唆しており、疲労の臨床現場における混乱を防ぐことが期待できる。
尚、最終的にはCFSの病因・病態を解明し、その病因・病態と密接に結び付いた検査所見によりCFSに特異的な診断法を開発する必要があることは言うまでもない。
我々は、ポジトロンCT(PET)検査にてCFS患者の脳では前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉、基底核などにおける局所脳血流量の低下や前帯状回を中心としたセロトニン系の代謝異常などがみられることより、CFSは種々の免疫物質によって引き起こされた脳機能障害である可能性が高いことを報告してきた10)。
さらに、平成21-23年度CFS研究班において、症状の強い12名のCFS患者と10名の健常者を対象に脳内炎症の有無を調べることのできる特殊検査(活性型ミクログリアに結合する特殊リガンド(11C-PK11195)とポジトロンCT(PET)を用いた検査)を行ったところ、CFS患者では左視床や中脳に炎症が存在していることを世界で初めて明らかにした11)。
このことは、少なくとも病状の重いCFS患者では脳内に炎症という器質的な変化もみられることを示唆しており、CFS診断において極めて有用な客観的な所見である。
しかし、これらのPET検査は高額な検査費用が必要であり、また限られた研究所でしか実施することができないため、日常の疲労診療において活用することは困難である。
そこで、平成25年度からの研究班では脳のPET検査にて明らかな異常が確認された患者を対象にしてCFS病態と密接に結び付いた簡便な検査所見を見出す臨床研究を企画しており、病因と直結したバイオマーカーを確立し、それに基づく診断・治療の開発を目指している。
また、CFSは原因不明の慢性的な疲労のために日常生活や社会生活に支障をきたす病態の原因究明を目的に設定された症候群であるが、中には極めて激しい疲労関連症状が持続するため、食事、入浴、室内の移動などの基本的な活動にも介助が必要な重症例も存在している。したがって、CFSの病因・病態の解明においては症状の重篤度などにも留意した層別解析も必要であると考えている。
文献
1) 倉恒弘彦.慢性疲労症候群の実態調査と客観的診断法の検証と普及. 厚生労働科学研究(障害者対策総合研究事業(神経・筋疾患分野)) 平成24年度研究業績報告書(印刷中).
2) 倉恒弘彦.自律神経機能異常を伴い慢性的な疲労を訴える患者に対する客観的な疲労診断法の確立と慢性疲労診断指針の作成. 厚生労働科学研究(障害者対策総合研究事業(神経・筋疾患分野)) 平成23年度研究業績報告書 平成24年(2012年)3月.
3) Holmes GP et al.: Chronic Fatigue Syndrome: a working case definition. Ann. Intern. Med 108: 387-389, 1988.
4) 木谷照夫. 本邦におけるChronic Fatigue Syndromeの実態調査ならびに病因・病態に関する研究. 厚生省特別研究事業平成3年度研究業績報告書 平成4年3月.
5) Reeves WC et al.: Identification of ambiguities in the 1994 chronic fatigue syndrome research case definition and recommendations for resolution. BMC Health Serv Res 3(1):25, 2003.
6) Carruthers BM et al.: Myalgic encephalomyelitis: International Consensus Criteria. J Intern Med 270(4):327-38, 2011.
7) 倉恒弘彦. 慢性疲労症候群診断基準の改定に向けて 日本疲労学会雑誌3(2):1-40,2008.
8) 倉恒弘彦. 慢性疲労症候群はどこまでわかったか? 医学のあゆみ 228(6):679-686, 2009.
9) 簑輪眞澄ほか.地域における疲労の実態とリスクファクター.愛知県豊川保健所管内の2市4町実態調査.厚生科学研究費補助金健康科学総合研究事業「疲労の実態調査と健康づくりのための疲労回復に関する研究」平成11年度研究業績報告書 pp19-44. 2000年3月.
10) 倉恒弘彦、渡辺恭良。慢性疲労症候群と帯状回 Clinical Neuroscience 23(11):1286-1291, 2005.
11) 渡辺恭良ほか. PETを用いた脳内炎症の分子イメージング研究. 厚生労働科学研究(障害者対策総合研究事業(神経・筋疾患分野)) 平成23年度研究業績報告書 pp52-53. 2012年3月.