・慢性疲労症候群(CFS)診断基準(平成25年3月一部改訂)1)
6か月以上持続ないし再発を繰り返す慢性的な疲労を主訴とした患者を診察する場合、表1に示す慢性疲労症候群(CFS)臨床診断基準を用いた診断を実施し、前提Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、を満たしたときCFSと診断する。
前提Ⅰ、Ⅱ、Ⅲのいずれかに合致せず、原因不明の慢性疲労を訴える場合は、特発性慢性疲労(Idiopathic Chronic Fatigue:ICF)と診断し、経過観察する。
CFSと診断された患者に対して、感染症後の発病が明らかな場合は感染後CFSと診断する。
気分障害(双極性障害、精神病性うつ病を除く)、身体表現性障害、不安障害、線維筋痛症などの併存疾患との関連については併存疾患の発症時期により、A群(併存疾患をもたないCFS)、B群(経過中に併存疾患をもつCFS)、C群(発病と同時に併存疾患をもつCFS)、D群(発病前から併存疾患をもつCFS)の4群に分類する。
さらに、疲労病態の客観的な評価を行うために表2に示されている客観的疲労評価によるCFSのレベル診断を行い、補助的検査レベル評価を0~4の5段階で実施することが望ましい。
考案
CFSとは、これまで健康に生活していた人が感染症などに罹患したことなどをきっかけに原因不明の激しい全身倦怠感に襲われ、それ以降激しい疲労感と共に微熱、頭痛、筋肉痛、脱力感や、思考力の障害、抑うつ等の精神神経症状などが長期にわたって続くため、健全な社会生活が送れなくなるという疾患である3,4)。
最近の研究により、CFSは単なる神経症的な病態ではなく、神経系、免疫系、内分泌・代謝系の異常が複雑に絡み合った病態であることが明らかになってきている。
多くのCFS患者を調べてみると、ヘルペスウイルスの再活性化や、自己抗体の存在、酸化ストレスの増加、抗酸化力の低下、NK活性や単球機能の低下、リンパ球のサブセット異常、種々のサイトカインの異常、視床下部・下垂体・副腎系の異常、前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉、基底核などにおける局所脳血流量の低下、右内側前頭皮質、脳幹部、帯状回やその近傍の内側皮質における糖代謝の低下、背外側前頭野の委縮など明らかな異常が見つかっている8)。
1999年、厚生労働省研究班(旧厚生省、班長:木谷照夫)が15~65歳の一般地域住民4,000名を対象に疲労に関する疫学調査(有効回答数3,015)を行ったところ、1,078名(35.8%)の人が半年以上続くか繰り返している慢性的な疲労を自覚していることが明らかになった。
慢性疲労を感じている人の半数近くでは自覚的な作業能力が低下しており、激しい慢性的な疲労のために学校や会社を時に休む、しばしば休む、休職・退職の状態にあると答えた人は合わせて105名で、全体の3.5%に及び、質問紙調査で厚労省CFS診断基準を満たすものも8名(0.3%)いることも判明した9)。
2012年、H24年度CFS研究班が同一の地域における一般地域住民2000名を対象に再調査(有効回答数1164)を実施したところ、445名(38.7%)の人が慢性疲労を自覚し、また、学校や会社を時に休む、しばしば休む、休職・退職の状態にあると答えていたものも1999年とほぼ同様に24名(全体の2.9%)確認されている1)。
したがって、慢性的な疲労の診療はプライマリケアを担っている医療機関においても重要な課題の1つとなっている。
今回のCFS診断基準改定の特徴は、医師がより簡便に疲労診療において活用できるように慢性疲労症候群(CFS)臨床診断基準(表1)とCFS診断における補助的検査(客観的疲労評価)(表2)を明示し、さらにCFS診断に必要な最低限の臨床検査(別表1-1)と除外すべき主な器質的疾患・病態(別表1-2)を表としてまとめたことにある。
また、2012年3月に発表されたCFS診断基準2)では「PS(performance status)による疲労・倦怠の程度」評価が削除されていたが、平成24年度の検討によりCFS患者と他の不定愁訴を訴える患者や健常者との鑑別において有用であることが確認されたため、2013年3月に策定された診断基準に、PSによる疲労・倦怠の程度評価(別表1-3)が追加された。
さらに、併存疾患として認められている気分障害(双極性障害、精神病性うつ病を除く)、身体表現性障害、不安障害、線維筋痛症、過敏性腸症候群など機能性身体症候群に含まれる病態については、これまでの診断基準ではCFSの発病前より認められる場合は除外されていたが、CFSの病因・病態の層別解析を進める目的にて「発病前から併存疾患(病態)をもつCFS(D群)」として包含されることとなった。
また、客観的な疲労評価を目的としたCFS診断における補助的検査(表2)についても、項目ごとにおける明確なカットオフ値が記載され、簡便な5つの検査項目の該当数によるレベル評価を診療所レベルで実施することが可能となった。各項目の検査意義については平成23年度報告書2)の中で解説しているので参照して頂きたい。