その2:化学物質過敏症:労災での救済を阻む「個別症例検討会」 | 化学物質過敏症 runのブログ

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事例 1 事業所の塗装工事による異臭で複数の労働者が発症
 大手自然食の宅配会社のAさん、Bさんは、2003年6月、本社からC事業所への異動を命じられました。

C事業所は元々他社の物流倉庫として使用されていた建物で、一部社員の異動に伴い改修工事が行われていました。

8月完成の予定で工事は途上でしたが、会社はC事業所へ社員の入居を敢行しました。

Aさん、Bさんたちが勤務する同じフロア内はまだ一部工事中で、接着剤やシンナーのような臭いが漂っている状態。

塗装工事も行われていましたが、社員には事前に周知されていませんでした。


 そんな中で、シンナーのような異臭がフロア内に流れ込む騒ぎが起きたのです。

その際、20名ほどの労働者が異臭のため具合が悪いと訴えています。

AさんとBさんにも、立ち眩み、倦怠感、咽頭痛などが起こりました。

慌てた会社は、本社への緊急避難措置を取りましたが、工事が完了すると、再び社員をC事業所に戻しました。


 C事業所に戻って間もなく、Aさんは仕事中にめまいに襲われ救急搬送されました。
Bさんも倦怠感、鼻血、のどが詰まるような感覚に苦しむようになりました。その後、二人は専門医療機関で「化学物質過敏症」と診断されました。

そしてAさんとBさんは長い休業を余儀なくされることになったのです。


 東京労働安全衛生センターは、2005年、池袋労働基準監督署に労災請求をした二人から相談を受け、サポートに入りました。


 03年に起きたC事業所での異臭騒ぎの中で、同じ事業所で多数の労働者が同種の症状を訴えていた事実から、二人がなんらかの化学物質にばく露したのは明らかでした。

これについては、後日、池袋労基署が依頼した東京労働局の労災協力医も「同時期に同じ職場環境下の複数の社員が体調不良を訴え医療機関を受診していることや、職場において症状の再発や増悪を繰り返したことは、職場環境と諸症状の因果関係を強く関連付けるものであると考える」との意見を述べています。


 しかし、2006年11月、二つの事案は池袋労基署の手を離れ、厚生労働省へと委ねられます。

「化学物質過敏症」を正式な疾病とは認めていない厚生労働省は、二つの事案を「新たな業務上疾病の認定事案」であるとし、本省協議事案として同省の職業病認定対策室へと回したのです。


 そして、07年6月から開催されることになった「化学物質に関する個別症例検討会」で検討にかけられることになりました。

個別症例検討会は、非公開で隔月開催というスローペース。

結局、両事案が検討されたのは同年12月。

池袋労基署がすべての調査を終了してから1年余りが経過していました。


 そして2008年4月、池袋労基署から結論が出ました。

Aさん、Bさんが03年に発症した傷病は、同一事業所の複数の労働者の自覚症状を呈したことから、ばく露直後の2ヶ月足らずの急性期は業務上と説明しながらも、「その後、症状が遷延化していることについては、未だ医学的知見が得られていない」とする個別症例検討会の意見書をそのまま引用し、Aさん、Bさんがその後も長年にわたり苦しんでいる症状については不支給としたのです。


 Bさんは、この事故による疾病での休職中、表向きは契約期間の満了ということで解雇されそうになりました。

公共の相談機関等を利用して、なんとか雇用は確保しましたが、会社は「責任は労災の結果で判断する」の一点張り。

そんな折、この不支給処分を知った会社は、一切交渉を受け入れなくなり、雇用をつなぐことが難しい状況に陥ってしまいました。


 現在、Bさんは個人加入の労働組合で再び雇用を確保して交渉を重ね、将来職場復帰をして生活の糧を得ることを目標にリハビリを行っています。しかし、事故を基点に続く症状を事故とは無関係とされた場合、職場復帰をあきらめなくてはならない事態も起こりうるのではという不安が常にあるそうです。


 「労災保険がその制度上、一生を補償するものではないこと、症状固定という判断があることも十分わかっています。しかし、労働災害にあった者が、会社と交渉し職場復帰を行って自立して生活できるような環境を整えるといった意味でも、業務中に起きた事故を起因とし、その後も続く症状についても、きちんと労災で認めてほしいと思います」とBさんは訴えています。