・出展;国立環境研究所
http://www.nies.go.jp/index-j.html
・国立環境研究所ニュース > 30巻 > 5号 (2011年12月発行) > 水田除草剤の環境中残留濃度予測モデルの構築と検証
【研究ノート】
水田除草剤の環境中残留濃度予測モデルの構築と検証 今泉 圭隆
【はじめに】
「モデル」という言葉でどういったことを連想するでしょうか。
「モデル」の意味を辞書などで調べてみると、規範・手本、模型・見本、絵や小説など制作の対象とする人やもの、ある事象についての諸要素の相互関係を定式化したものなど複数の説明があります。
環境研究の中で用いるモデルという言葉の意味も一つには絞れません。
例えば、「低炭素社会実現のための環境モデル都市」の場合にはモデルは手本に近い意味ですし、「地球温暖化予測モデル」の場合には模型に近い意味です。
化学物質の環境リスク研究におけるモデルとは、環境中での化学物質の挙動をコンピューターで予測計算するモデルを意味する場合が多いです。ここでのモデルにも様々な種類があります。
例えば、複数の化学物質の残留性や長距離輸送性を相対的に評価する場合には平均的な環境を“模型化”したモデルで比較することが必要ですし、特定の環境や条件での残留性を評価する場合には対象となる環境を詳細に“模型化”したモデルを用いることが必要です。
実際のモデルでは、両者の要素が混在しており、その目的や目標、入力情報、前提条件などの違いによって多種多様なものが存在しています。
化学物質のリスク評価では、曝露評価と有害性評価を行います。
曝露評価では、ヒトや生物がどの程度化学物質にさらされているかということを定量的に評価します。
有害性評価では、どの程度の量の化学物質にさらされると、どの程度の有害な影響がヒトや生物に現れるか、その関係を評価します。
曝露評価と有害性評価からそれぞれ得られた、ヒトや生物がさらされている化学物質の量や濃度と、化学物質の有害な影響の程度を比較することで、ヒトや生物に対する化学物質のリスクを評価します。
【多媒体モデル】
化学物質の環境中濃度は、場所や時間、媒体(大気や河川、土壌など)によって違います。
化学物質ごとに高濃度になる場所や時間変動の状況、残留している媒体が違うため、環境中濃度の代表値を決定する方法は非常に重要です。
生態リスク評価で考慮すべき生物種は多岐にわたり、化学物質がそれぞれの生物へ及ぼす影響も様々です。
数日から数週間という比較的短い期間での曝露であっても影響が出る可能性があります。
全ての場所や時間において環境中の化学物質濃度を正確に把握することは現状では不可能です。
より正確なリスク評価を実施するためには、より広範囲の地域・期間における実態把握と高濃度で残留する特定の地域・期間における濃度予測がさらに必要になります。
環境中の化学物質濃度を把握する方法には、環境中濃度を実測する方法とモデルを用いて予測する方法があります。
実測の場合、サンプル中の濃度をある程度正確に把握することは可能ですが、広範囲の地域・時期で状況を把握するためには莫大なコストが必要です。
一方、モデル予測の場合、広範囲の地域・期間で、多種類の化学物質に関して環境中濃度を把握することが可能ですが、予測精度の高いモデルを構築することが課題になります。
異なる媒体間を移動する化学物質や、残留しやすい媒体が異なる化学物質群を評価する場合には、複数の媒体中の化学物質濃度を同時に計算するモデル(多媒体モデル)を利用することになります。