21.8 子どもへのリスク
無線電話の使用は子どもと若者の間で広まった(Soderqvist 等、2007、2008)。
子どもの脳は大人よりもRF(無線周波数)電磁界照射からの電磁波を高く吸収する(Cardis 等,2008;Christ 等,2010;Gandhi 等,2012)。
これは頭が小さいこと、頭蓋骨が薄いこと、脳組織の伝導性が高いことが原因だ。
成長中の脳は毒物に対してより敏感で(Kheifets 等,2005)、脳は20 歳頃まで成長を続ける(Dosenbach等,2010)。
時間単位毎のRF エネルギーの吸収がより大きいこと、子どもたちの脳がより敏感なこと、脳腫瘍になるまでの生涯の期間がより長いことで、子どもたちは大人よりも携帯電話電磁波からのリスクが高い状況に置かれている。
ハーデル・グループの結果の分析は、20 歳になる前に初めて携帯電話を使うことは神経膠腫と聴神経腫のリスクが最も高くなることに関連した。
表21.2 参照
特に長期間の使用と左右の偏りについて研究照(Hardell,Carlberg,2009)。
無線電話を初めて使った年齢群を、<20 歳、20-49 歳、50-80 歳の三つのグループに分けけた。
神経膠腫について、携帯電話を初めて使ったのが<20 歳だとオッズ比は3.1 倍(95%CI=1.4-6.7)だった。同様のパターンがコードレス電話の使用でも見られた(データ提示せず)。
聴神経腫も、最も若いグループでリスクが高くなり、オッズ比は5.0 倍だった(95%CI=1.5-1.6)。
しかし、20 歳前に初めてコードレス電話を使ったのは1 症例だけだったので、コードレス電話について結論を出すことはできない。
これらのオッズ比は、最も若いグループで同側での携帯電話使用で更に高くなった。
神経膠腫はオッズ比4.4 倍(95%CI=1.3-1.5)、聴神経腫はオッズ比6.8 倍(95%CI=1.4-3.4)だった。
髄膜種については、リスク増加パターンに関連する明らかな年齢は見られなかった。
非常にわずかながら、携帯電話使用と子どもについて、CEFALO 研究(エイディン[Aydin]等,2011)と、進行中であるEU のモビキッズ[Mobikids]8以外にも研究が行われている。
デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、スイスで行われた多施設症例対象
研究CEFALO は、下記で例証したように、深刻な方法論的問題があったので、スーダークヴィスト[Soderqvist]等によって詳細に論評された(2011)。
研究の要約で、通常の携帯電話使用が脳腫瘍のリスクを増やすことを観察
しなかったと著者等は記した。
この結論には、リスクの増加は「再確認」され
なかったというストックホルムのカロリンスカ研究所の報道発表(Karolinska
Institute, 2011)だけでなく、研究は脳腫瘍の増加を示さなかった(Boice と
Tarone, 2011)という編集部の声明が添えられた。
しかし、その声明は研究が実際に示したこととは、かけ離れている。
例えば、コードレス電話使用のデータ収集と分析は妥当ではなかった。
コードレス電話の使用は、使用から最初の3 年間でのみ評価され、それについて最も特異的な定義を著者等は説明せず、参照文献も載せなかった。さらに、その研究は被曝分類として、携帯電話とコードレス電話の両方を含む、無線電話使用を全く考慮しなかった。
IARC は関連する被曝グループとして無線電話使用を分類した(Baan 等,2011)。
それどころか、エイディン等(2011)は、コードレス電話の使用を「非被曝」分類に含めた。
そのため、携帯電話使用のリスクは過小評価されただろう。
同様に、コードレス電話の使用を考える場合、携帯電話使用は「非被曝」に含まれ、従ってリスク増加は潜在的に隠された。
その研究は、通常の携帯電話使用での脳腫瘍についてリスク増加が統計学的に有意でないと示し、オッズ比は1.36 倍(95%CI=0.92-2.02)だった。このオッズ比は、携帯電話の契約期間や通話期間の累積でいくぶん増えた(Aydin 等, 連絡先:詳細についてはecardis@creal.cat132011
)。
5 年以上の潜伏期間は、この分類の中ではごくわずかな症例しかなかった。
さらに、本当の関連性の支持は、症例62 人と対象101 人の、電話操作者が記録した使用時間に基づく結果で見られた。
最初の契約から>2.8 年で、統計学的に有意な傾向(P=0.001)とともに、統計学的に有意なオッズ比2.15 倍(95%CI=1.07-4.29)が生じた。
著者等は結果がリスク増加を示したことを強調しなかったが、低被曝や短い潜伏期間、限定的な研究デザインと分析にも関わらず、そのデータは控えめなリスク増加を示した。
明らかにそれは、解説で議論されたように、関連性に対抗する再確認の証拠として使われるべきではなかった(Soderqvist等,2011)。
残念ながら、CEFALO 研究(Aydin 等,2011)は、2011 年5 月のIARC 会議の後で発表された。
IARC 会議に間に合ったなら、ヒトのRF 電磁界被曝はグループ2B の発がん性物質だ、というIARC の結論を支持するための、さらなる証拠を提供しただろう。