たとえば、2つの別の起源の鉛が同量混合した場合は、その中間の組成を持つことになります。
このような特徴を使って、環境の分野では、鉛の同位体比を汚染源の解析によく利用しています。
本研究の鉛曝露解析においては、小児の血中鉛と、曝露媒体中鉛の同位体比を測定することによって、小児の血中鉛に、想定される複数の曝露媒体中の鉛がそれぞれどの程度寄与しているのかを推定しました。
一方、現在環境中の鉛濃度が比較的低いこと、同位体比の差が非常に小さいことが予想されたため、複数の検出器を備えた、高精度に同位体比の分析が可能であるマルチコレクター型誘導結合プラズマ質量分析計(MC-ICPMS、図1)が有効な手段となります。
採血ができた小児のうち、調査協力の得られた数名の小児の家庭を訪問し、曝露源として想定される家の周辺や学校の土壌、食事(1日分の飲食物を混合したもの)、ハウスダスト(掃除機塵)を採取しました。
試料からヒト体内の胃液と成分を似せた“疑似消化液”で鉛を抽出した後、クリーンアップ等の前処理を行い、血液試料とともに、鉛同位体比と濃度の測定を行いました。
ある女児のケースにおける、採取した試料と血液の鉛同位体比(207Pb/206Pb、208Pb/206Pb)の分布を図2に示します。
血中鉛の同位体比は、ハウスダスト、食事、土壌のおよそ中間的な値を示しました。
食事と学校土壌とハウスダストの鉛同位体比と鉛濃度、血中鉛同位体比と鉛濃度を用いて、それぞれの寄与率を算出すると、食事、土壌、ハウスダストの寄与率は、それぞれ15%、34-39%、42-47%となりました。
他の小児についても同様の解析をおこなったところ、ハウスダストの寄与が半分程度あることがわかり、ハウスダストへの対策を行うことが鉛曝露の低減化に結びつく可能性を示すことができました。
さらに、本方法を用いることにより、実測が非常に難しいハウスダストや土壌の非意図的摂食量を逆に推定することができます。
本研究で推定することができた小児のハウスダスト摂食量は40-100 mg/日程度でした。
これは、今後の曝露評価においても非常に有用な情報となると考えられます。