ヒトの化学物質曝露を評価する | 化学物質過敏症 runのブログ

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・出展;国立環境研究所
http://www.nies.go.jp/index-j.html

・【研究ノート】
ヒトの化学物質曝露を評価する
高木 麻衣

はじめに

私たちは多種多様な化学物質の恩恵を受けている一方、その中にはヒトや生態系への悪影響が懸念されているものも多く存在します。

欧州連合(EU)で電気・電子機器における特定有害化学物質使用制限(RoHS指令)が2006年に施行、化学物質の安全性の評価を義務付ける新化学品規制(REACH)が2007年に施行される等、世界的に化学物質の使用および輸出入に関する規制が強化される傾向にあります。

一般に、有害な化学物質からヒトの健康を守るためにはリスク評価を行うことが重要ですが、そのためには化学物質の曝露評価が不可欠です。

曝露評価とは、ある化学物質をどのくらい摂取しているのか(曝露量)や、どのような経路で摂取しているか(曝露源)を明らかにすることです。

また、曝露源の解析はその後の対策へ有用な情報を与えます。

曝露評価の際は、環境試料や生体試料中のその化学物質を“測る”ことが必要ですが、近年はppb(10-9をあらわす単位)あるいはppt(10-12をあらわす単位)レベルの曝露の議論が必要な化学物質も増えてきており、より高感度、高精度な分析法が求められています。

今回は、小児の鉛曝露について研究した例を紹介します。


高精度鉛同位体比分析を用いた小児の鉛曝露源の解析

鉛は延性、耐腐食性、低融点など、工業的に優れた性質を持つため、おしろい、塗料、鉛水道管、缶詰めのはんだ、ガソリン等、古くから身近なところで使用されてきました。

それゆえ、環境や健康影響に関する研究の歴史も比較的長い物質です。近年では、より低レベルの鉛曝露における小児の認知機能発達への影響が懸念され、世界的にも大きな関心事項となっています。

日本人小児の血中鉛濃度は、諸外国と比較しても低いレベルにありますが、小児の認知機能発達への影響に対する閾値(いきち;影響がみられる最低の曝露レベル)が不明確であることから、可能な限り曝露を減らすことが望ましいとされています。

曝露を低減化するためには、曝露源の解析が必要ですが、私たちは鉛の同位体比という指標を用いて解析を試みました。

鉛には204Pb、206Pb、207Pb、208Pbの4種類の安定同位体が存在します。鉛鉱石ができる場所(鉱床)や、採掘された年代によってその組成が異なることが知られています。

206Pbは238U(ウラン)、207Pbは235U(ウラン)、208Pbは232Th(トリウム)からといった、それぞれ異なる親核種から放射壊変という過程を経てできており、その親核種の含量が鉱床によって異なるため、鉱床特有の同位体組成を持つことになります。

いったん採掘された鉛鉱石の同位体組成は、その後の加工、燃焼、ヒト体内代謝など、さまざまな物理・化学・生物的過程を経てもそのまま保持されます。

起源の異なる鉛が混合した場合、同位体組成はその混合比に従って変化します。